メビウスの残したもの。
「…っ」
眠っていたベッドで目を覚ましたカルアが体を起こす。
「カルア…起きたか。」
「シャンス様…イグニスは?」
「ここだよ。」
シャンスが手のひらサイズになった黒いクリスタルを差し出す。
「めーちゃんもこの中に…」
「今世界中の国王が集まって平和に向けて会議してる。イグニスの魔力が失われても、他の国のサポートでなんとかコウン王国は大丈夫そうだよ。だからカルア…君が持ってろ。」
「めーちゃん。出てこれるかな。」
「心配ないよ。姫。お待たせしたでござるってすぐに出てくるよ。」
シャンスがメビウスの物真似をする。
「そうですよね。命令しましたし。うちのめーちゃんはいい子なので。きっと。」
「封印されたクリスタルと一緒にこれが落ちてた。」
シャンスが差し出したのはエーテル王国でメビウスが作った黒いピアス。
「…っ!めー…ちゃ…うう…」
シャンスがそっとカルアを抱き寄せる。
「今度は俺がカルアを支える番だな。」
カルアの泣き声は部屋の外から聞こえる勝利の歓声にかき消された。
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勝利の宴でみんなが疲れ果て、中には泥酔して吐くものも現れる。
そんなにぎやかなコウン王国の広場をシャンスがぼーっと眺めていた。
「何してるんだい?シャンス。」
「…チャトラ。いや。大賢者ヨハン様か。」
「悪意ある呼び方しないでよひどいなぁ。」
「悪い。どうした?」
「ちょっと話そうよ。シャンスは勇者になって世界を救ってどう思う?」
「…難しい質問だな。勇者になったのはたまたま魔王に襲われて、たまたま勇者に命懸けで助けられて、たまたま勇者になっただけだ。世界を救ったのも俺一人じゃ何もできてない。魔王を倒したのだってチャトラとイグニスだ。イグニスを封印したのはチャトラとメビウス。俺はただ。その場に居合わせただけのただの村人だよ。」
「でも君は見事に勇者として行動してきた。それは一番近くにいた僕が保証する。」
「そうだな。危ない時に運が職務放棄とか言ってきたけど。終わってみれば俺はずっと運がよかったんだろうなって思うよ。チャトラに出会えたことも。カルアに出会えたことも。全部。」
「君が勇者の装備を盗まれて偽物と気づいていたら『いにしえの森』には来なかったもんね。世界っていうのはいろんなところで偶然が重なって、未来を創っていく。その偶然を自らつかみ取れるのが君の生まれ持った強いところだね。」
「ベタ褒めじゃねぇか。どうしたんだチャトラ先生。」
「本当によく頑張ったねって言いたいんだよ。村人なのに。」
「サンキューなチャトラ。これかもサポート頼むよ。相棒。」
「大賢者ヨハンにサポートを頼む村人なんて聞いたことないよ。」
シャンスの方にチャトラが乗り。カルアがいる部屋へと向かっていく。
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俺はシャンス。運のステータスがただ高いだけの村人。皆を騙す、偽物の勇者だ。




