決着。
剣に貫かれ、イグニスの魔法を近距離で浴びたメビウスの翼は片方が無くなっていた。
「殿…拙者は再び、殿と戦えて光栄でござった。以前のイグニス戦は拙者は連れて行ってもらえなかったでござるからな。」
「メビウス!!何言ってるんだ。早く僕の体に…!!」
「姫に封印を解いてもらい、殿が守った世界をいろいろと見せてもらってでござる。たくさんの人々が集まって協力し合い、助け合って生きていた。拙者は…こんな時がずっと続けばいいと思ったでござる。殿が命をかけて守ったものはこれのことだったのだと気づいたでござるよ。」
「いいから喋るんじゃない!!僕の中に入って休むんだよ!!メビウス!!」
「だから拙者は…今度は拙者が…命をかけて殿の…拙者の大切なものを守るでござる。」
「やめろ…やめるんだメビウス…」
「シャンス殿…姫をよろしく頼むでござるよ。」
メビウスは光になってイグニスへと飛んでいく。
「「メビウス!!!」」
シャンスとヨハンの叫びも届かず、イグニスの中へメビウスが侵入する。
「ほう。黒龍か。わざわざ力を我に持ってくるとはな。……!?」
イグニスの動きが止まる。
「…!?貴様…何をしている…我の体に…!!」
イグニスの体が光り、ツバキの体から離れる。
天災竜の姿に戻ったイグニスが体の中で暴れるメビウスを止めようと必死になる。
「やめろ…せっかく復活できたんだ…竜を喰らいつくして…やめろ!!やめろぉぉぉぉ!!!」
イグニスの体に無数の穴が開き、竜の力が漏れ始める。
「我の力が…黒龍ごときに…ぐっ…ああああ…」
竜の力がすべて流れだし、イグニスの意識を暴れていたメビウスが奪い取った。
「殿!!拙者がイグニスを押さえているうちに封印を!!」
「何言ってやがるメビウス!!イグニスの力はなくなったんだろう?早く憑依解いてチャトラに戻れ!!」
「そうもいかないでござるよ。イグニスは肉体を失ってもまた力を蓄えて復活する。拙者が抑えているうちに封印するしか手が無いでござる。」
「…メビウスの言う通りだよ。イグニスは封印するしか倒す方法がない。」
「じゃあメビウスは…!!!」
「いいんだねメビウス…」
「早くしてくだされ…いつまでイグニスを抑え込めるか分からないでござる。」
「分かった。」
ヨハンが封印するための魔力を練り始める。
「…シャンス!イグニスを封印するだけの魔力が足りない!!」
「俺の魔力もほぼ残ってねぇぞ!?」
「私の魔力を…使ってください。」
ユウと共にカルアが現れる。
「カルア?大丈夫なのか?」
「私は大丈夫です。その竜…めーちゃんなんでしょう?」
「姫…」
「そう…ツバキさんに憑依していた竜がイグニスだったんだね。」
「勝手なことをして申し訳ないでござるよ。」
「本当だよ。私に何にも言わずにいなくなっちゃうなんて。本当にダメな子…だよ…」
カルアの必死の訴えにメビウスは何も言えなくなる。
「でも…めーちゃんは私の誇りだよ。大切な家族。だから、私から命令!」
カルアが涙を拭い、メビウスに話しかける。
「私がおばあちゃんになる前にイグニスだけ残して封印を解いて戻ってきて。」
「姫…無茶でござるよ。」
「無茶でもやるの。私が待ってるから。いつまでも。」
「…御意。」
メビウスの返事を聞いた後、カルアはヨハンに手をかざし、ほぼすべての魔力を注ぎ込んだ。
「大好きだよ。めーちゃん。」
そう言い残し、急激に魔力を失って後ろに倒れるカルアをシャンスが抱きかかえる。
「助かったよカルア。これだけあれば十分だ。いくよ。僕の大切な友達。メビウス。」
ヨハンが封印魔法を放ち、イグニスとメビウスを包み込む。
イグニスの体は小さくなり、生成された黒いクリスタルに封印される。
「成功だよ。天災竜イグニスは封印された。」




