大賢者ヨハン。覚醒するイグニス。
ヴリトラの波動が完全に消え、視界が晴れる。
シャンスとツバキの目の前に茶色いローブを纏い。杖を持った金髪の青年がヴリトラの波動を魔法で受け止めていた。
「チャトラ…なのか?」「…殿?」
「騙してごめんね。言うタイミング逃しちゃって。」
振り向いた青年が舌を出してウインクする。
「僕の名前はヨハン。魔術師さ。」
「ヨハン!?チャトラが大賢者ヨハンだってのかよ?何百年も前にイグニスを封印して死んだはずだろう?」
「間違いござらん。殿でござる…」
「そうだよ。大賢者なんて名前が付いたのは僕が死んだ後だけどね。正確には肉体が死んだ後。イグニスを封印するときに僕の体を魔力に変えて封印したんだ。意識だけになった僕は波長の合う草や花、動物に憑依して今までこの世界を見守ってきた。そんなときに君に出会ったんだ。」
「何百年もそうして見てきたってのかよ…」
「そうさ。勇者が死んでシャンスが代わりに勇者をしていると分かった時は驚いたけど、僕は君を助けようと思った。あの頃は弱くて、すぐ死んじゃいそうだったけど、他人を大切にできる強い心を持ったただの村人シャンスに。そして君は強くなった。フォルスやカルア。大切な人に支えられながら。」
「チャトラ…」
「だから。僕は君を守る。トメイトゥも一生分だよ!忘れないでね。」
「5年分から増えてんな…」
チャトラがえへへっと笑う。
「休んでて。すぐ終わらせるから。」
チャトラ…大賢者ヨハンがヴリトラに杖を向ける。
「ホーリーランス。」
ヨハンの杖から数えきれないほどの光の槍が出現し、次々とヴリトラに降り注ぐ。
「大賢者だと?過去の遺物が我に勝てると思うなよ!」
ヴリトラも闇の槍を出現させ、ヨハンの光の槍を相殺する。
「まだだよ。」
再びヨハンが光の槍を出現させ、ヴリトラへ。
「…!?魔力が足りぬか…おのれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ヨハンの槍を相殺しきれず、ヴリトラを貫く。
すべての槍がヴリトラに突き刺さった後、ヴリトラが話し始める。
「おのれ…大賢者…そういうのチートっていうんだぜ…」
もはや虫の息のヴリトラ。
よくやったぞ貴様ら。ほめてやる。
「!?フレア?」
ツバキの体から憑依を解き、現れる炎竜フレア…いや。
全ての竜を喰らい、世界を滅ぼす災厄。
天災竜イグニスが現れ、ヴリトラに4属性の魔法をぶつける。
「天災…竜…」
ヴリトラが消滅し、その膨大な魔力がイグニスへと流れ込む。
「ついに暗黒竜ヴリトラを喰った!これで大賢者であろうと我を止めることはできぬ。」
「おいフレア…?どうしたんだよ…」
「すまんなツバキ。お前は本当によくやってくれた。我の言葉を信じ、竜を殺してくれた。世界樹を守る妖精竜でさえも。」
「は?…な、なに言ってんだよ。あれは…お前が悪い竜だって…」
「嘘だよ。妖精竜は世界樹を古くから守る竜。エルフどもと幸せに暮らしておったわ。」
「エルフも悪いやつじゃなかったって言うのかよ…俺…殺したぞ…」
「この世界のことを何も知らぬお前が転生した場所に居合わせて本当に運がよかった。」
「ふざけんじゃねぇ…何が勇者だ…ただの騙された人殺しじゃねぇか…」
「よく働いてくれた。その体も我によく馴染んでいる。これからもありがたく使わせてもらおう。」
イグニスが光になってツバキの中に戻っていく。今度はツバキの精神ごと上書きするように。
「うあぁぁぁぁぁ!!!」
「ツバキ!!!」
シャンスが駆け寄ろうとするがヨハンに止められる。
「よせシャンス!!もうあれはツバキじゃない…」
イグニスに乗っ取られたツバキの肌が竜の鱗へと変わっていく。
「我は完全復活し、新たな体も手に入れた。数百年前と同じにはならんぞ。忌々しい魔術師よ。」




