迫りくる魔王。帰ってきた勇者装備。
アイリス討伐から4日が経ったある日。エーテルを満喫しているシャンス達の元へコウン王国の使者が現れる。
「勇者様。先日エーテル王国とコウン王国の間にある平原にて、復活した魔王とその部下。その数約10万の勢力が集まりつつあります。」
「魔王…」
村人時代に気まぐれで殺されかけた忌々しい顔が浮かぶ。
「コウン王国国王はエーテル王国国王と連携し、魔王軍を迎え撃つとのこと。ガルム様からも了承を頂いております。」
「そうか。わかった。決戦はいつだ?」
「3日後の夜明けとともに。」
「わかった。それまでに必要なものを揃えておく。」
「よろしくお願い致します。どうか魔王を倒し、世界の平和を。」
そういうと使者は転移の魔法石を砕き消えて行った。
「シャンス殿!」
エーテル王国騎士団団長。ユウが駆け寄ってくる。
「魔王復活の報せは聞きましたか?」
「ああ。いまさっき。」
「そうでしたか。ガルム様とエレーナ様の命により、シャンス殿達に助力せよとのことです。どうか私も連れて行って下さい。」
「構わねぇけどお前の騎士団はどうするんだ?」
「ガルム様が団長に復帰なされたので、問題はないかと。今は戦いの勘を取り戻すため、ダンジョンに挑んでおられます。」
「元気だなガルムさんも。エルは守ってあげなくてもいいのか?」
「そこが1番の心配だったのですが、『私の騎士ユウは私が危険になる前に飛んでくるのだから心配いらないでしょう?前線で活躍して名を上げて戻ってきなさい。』と。」
たしかにユウのスピードならエルがどこにいても一瞬で助け出せるだろう。
「わかった。ユウ。力を貸してくれ。」
「是非。シャンス殿のお力になれますよう。尽力致します。」
ユウが仲間に加わり、決戦の時までに出来ることを話し合っていると小さな男と大きな男がこちらに向かって走ってきた。
覚えているだろうか?5話でシャンスが勇者から貰った装備一式を盗み、そっくりの偽物とすり替えた盗賊の二人。ムンムーとモンムーを。
「勇者様!!!はぁ…はぁ…」
息を切らせながら走ってきた二人はとても焦っていた。
「誰だお前ら。どうしたんだ。」
「「すみませんでした!!!!」」
二人がシャンスに土下座する。そして小さい方の男、ムンムーが袋の中から勇者の剣と鎧を出した。
「あ!!!!お前らか!!!!!」
シャンスが大声を上げる。
「本当にすみませんでした!!!お金目当てで勇者様の装備を盗んだでやんす。でも装備出来ないからって誰も買ってくれなかったでやんす!」
「お前らのせいで死にかけたんだぞ!!!」
勇者の装備が一晩寝ただけで装備できるようになったと勘違いし、「いにしえの森」へ1人で行き、全身麻痺になった時のことを思い出す。
「本当にすまねぇ。今魔王軍が平原に勢力を集めてるのは知ってるよな?その近くに俺たちの故郷があるんだ。勝手な頼みなのは分かってる。勇者の装備は返すから、俺たちの故郷を守ってくれ。」
「お願いするでやんす!!」
ムンムーとモンムーが深々と頭を下げる。
「もういい。頭あげろ。俺は生きてる。お前達の故郷も絶対に守ってやる。装備持ってきてくれてありがとな。」
「勇者様…いえ、兄貴と呼ばせてください!!!」
「兄貴!!シャンスの兄貴!!!でやんす!!!」
「やめろくっつくな!!!」
シャンスに変な弟分が二人出来てしまった。
「じゃあ僕のことは叔父貴って呼んでいいよ。」
どこから持ってきたのかしらないがちょび髭をつけたチャトラが二人の前で仁王立ちする。
「叔父貴!!!」「叔父貴!!!でやんす!!」
チャトラが満足そうに二人を見下ろしている。
「あの…シャンス様?勇者の装備…盗まれていたんですか?」
カルアが信じられない。と口を開けていた。
「あ、ああ。最初にカルアと会った日の夜にな…」
「じゃあそんな装備でリコリスやニルを倒してきたんですか…有り得ません…。」
「ほら…そのへんは勇者だから…ね?」
放心状態のカルアは置いておいて、シャンスは勇者の鎧を手に取り、装備する。
「俺だってあれから強くなったんだ。認めてくれよ。本物の勇者として。」
鎧に袖が通る。鎧がシャンスを勇者とみとめ、力が溢れてくる。本物の勇者の力が。
「すっげぇ…」
シャンスが感嘆の声をあげる。
「チャトラ、カルア。メビウス、ユウ。魔王を倒すぞ。」
シャンスの言葉に皆が頷く。
「剣は…3本になっちまったな…」
どうしよう。と3本の剣を持つシャンスにユウが提案する。
「エーテル国の商業地区に腕利きの鍛冶屋がいる。そこにいって武器合成をしてもらうといい。きっと今の剣より強い剣が手に入るはずだ。」
「本当か?ユウ。案内してくれ。」
「了解した。」
ユウの後をついてシャンス達は歩き出した。




