エーテル国王の厚意。チャトラの悪だくみ。
「エレーナ!!」
洗脳が解かれたエーテル国国王、ガルムだ。
「お父様…」
「よくぞ無事で…エリシアは?」
「お母様は…アイリスに…」
エルは言えなかった。エルの母親。エリシアが洗脳されたガルムに首を締められ、命を落としたことを。
「そうか…エリシア…」
ガルムが目に涙をため、エレーナを抱きしめる。
「ガルム様。ご無事で何よりです。王妃様を守れず、申し訳ありません…」
「ユウか…いや。エレーナだけでも無事だったのだ。それだけでいい…国も守られたのだ。」
「お父様…この者達がアイリスを倒したのです。コウン王国の勇者、シャンス様と魔術師のカルア様です。」
「そうか、コウン王国の。礼を言う。国を…娘を救ってくれてありがとう。」
「アイリスとは因縁がありましたので。私用で来ただけですよ。」
「そういう訳にはいかん。ぜひ我が国で何日か体を休めてくれ。最高のもてなしを約束しよう。」
「シャンス様!!最高のもてなしですって!!!きっと宿もスイートですよスイート!!」
カルアがもてなしという言葉に飛び跳ねる。
「ガルム殿!!正気に戻られたか!!よかったよかった!!しかしガルム殿の拳は引退されてなお健在ですなぁ。ガハハハハ。」
目を腫らし、ところどころ血を流したジークが笑いながら歩いてくる。
「おお。ジーク殿。貴方がワシをとめておいてくれたのか。操られていたとはいえ、ワシも元武闘家…生半可な戦士では止められなかったであろう。」
「もう少しシャンス殿達がアイリスを倒すのが遅ければやられていただろうよ。ガハハ!」
無敵か。おっさん。ジークが笑う度血が飛び散っている。
「早くポーション飲めジークさん!」
「なんのこれしき!!唾でもつけとけば治るわい。」
そう言って笑い飛ばすジークに呆れながら、戦いの後の話は盛り上がる。
ひとしきり騒いだ後、シャンス達は国王に紹介された宿に到着する。
「いらっしゃいませ。シャンス様ですね。国王から最高のもてなしをせよと仰せつかっております。どうぞこちらへ。」
シャンスたちが案内されたのはエーテル王国屈指の宿屋の最高峰のスイートルーム。
「すごーい!!!シャンス様!!!スイートですよスイート!!!」
「凄いな…ゆっくり休めそうだな。」
「お喜び頂けて何よりです。ちなみにここに宿泊される方のペット様にも天国のようなお部屋がございます。宜しければいかがでしょうか?」
「僕はペットじゃないよ。シャンスの師匠だよ。」「拙者もペットではござらん。黒龍メビウスと申す。」
「!?…これは失礼致しました。旅行の際に夫婦の方達がペット様を私共にお預けなさるので、そちらの提案をさせて頂きました。」
チャトラが一瞬考え、悪い笑みを浮かべて話し始める。
「そんなにすごいおもてなしがあるのかい?」
「もちろんでございます。食べ物はもちろん。マッサージもございます。」
「シャンス!僕とメビウスはそっちに泊まるよ!」
「!?チャトラ殿??勝手に決められては…」
チャトラがメビウスに耳打ちする。
「カルアとシャンスのためだよ。」
「…!?…御意。」
チャトラとメビウスが仲良く宿の者について行く。
「えっ??めーちゃん??」
メビウスが振り向き、ウインクした。
「頑張るでござるよ。姫。」
「え?…ええ。えええええええ!!!?」
突然始まったシャンスと二人きりの夜。カルアの心臓の鼓動が早まっていく。




