盗賊と天気予報と自信と慢心
シャンスは王国の南にある宿 ヤスンデッ亭にたどり着き借りてあった部屋のベットに倒れ込んだ。
元々装備できていないため、鎧は倒れる動作とともにずれ落ち、パンツ1枚となったシャンスが横たわる。
騎士のダンジョン…どうしよう…
解決策が見つからないまま、シャンスは深い眠りに着いてしまった。
その日の夜中。シャンスが休む部屋に忍び寄る2つの影。
「兄貴!ここが勇者の部屋でやんす!」
「静かにしろっ。勇者様だぞ!警戒心が強いに決まってらぁ!!!起きたらどうすんだ!!!」
「兄貴が1番うるさいでやん…痛いでやんすっ!!!」
勇者の部屋の前で盛大に騒ぐ影。
王国を脅かす…ほどではないただの盗賊、大きいモンムーと小さいムンムーである。
天気予報が始まりそうな名前のこの2人は勇者が持つ伝説の装備、『勇者の鎧』と『勇者の聖剣』を盗みに来た小悪党である。
「天気予報なんてしないでやんす!」
それは失礼。それはともかく小さいムンムーが勇者の部屋へ無音で忍び込む。
「ビンゴでやんす。」
ムンムーは勇者の聖剣と鎧をモンムーへ渡し、魔法の詠唱を始める。
「ほいっ…でやんす。」
ムンムーが魔法を放った先に形だけコピーした偽物の勇者の剣と鎧が出現した。
「ミッションコンプリートでやんす。」
最初堂々と入口から来たのにムンムーはロープに宙吊りになり、天井裏へと消えていった。
翌朝。
「ふぁ〜」
大きなあくびでシャンスは目を覚ました。
とりあえず仲間を集めてダンジョンを突破するしかない。無理なら無理でちゃんと断ろう。
さもなくばコウン王国の勇者が不在となり、王国はたちまち戦火に包まれるだろう。
打倒魔王を強く決心し、勇者の装備に手を伸ばす。
「あれ??昨日より軽い??」
そう。勇者の装備が昨日より断然軽いのである。
そっと腕を通してみる。
「通った!着れた!!きっとステータスが上がったんだ!勇者の主人公補正だ!」
シャンスはテンションが上がり、しっかりと鎧を着込んで剣を抜いてみる。
光り輝く聖剣。その輝きはまさに本物と思ってしまう程の強い輝き。そして軽い。
昨日のうちに盗賊が入り、偽物に入れ替わっているなどシャンスは考えもしない。
ここに偽物の勇者と偽物の聖剣、偽物の鎧を装備した正真正銘ただのコスプレ勇者が爆誕した。
「いやぁ…困るなぁ…そんな急に補正入って強くなっちゃうなんてなぁ…」
補正など入っていない。元々装備できなかったものなので戦力的にはプラスもマイナスもない。変化は0である。
しかし、もしもシャンスがレベルを上げ、勇者の装備を使いこなせるまでに至ったとすれば、それは大幅なマイナスであり、魔王など以ての外、幹部の魔人ですら、今の偽物装備では倒せないのである。
そんなことシャンスは知る由もないのである。
「よしっ聖剣も振れるしちょっと騎士ダンジョンより優しめなダンジョンに行ってみるか。」
ノリノリで勇者のコスプレを着こなし、シャンスは無謀にも推奨レベル30のダンジョンへと向かっていった。




