解ける洗脳。語られる真実。
「メビウス!!」
カルアの横腹から血が流れる。
「…申し訳ござらん姫…お体に傷を…」
そんなこといいからポーション飲んで!!
「一人脱落ね。正確には一人と一匹かしら。次はあなたよ。子猫ちゃん。」
カデルの周りに氷の塊が出現し、チャトラを襲う。
チャトラは氷を剣で受け流すが、数が多く、撃ち漏らした氷が腕や足に突き刺さる。
「もう観念して死んでいいのよ?魔力がもったいないわ。」
「ぐ…ごめんよシャンス。時間がないから最後に無茶するよ。」
分かった。倒せなくても俺がやる。
チャトラが氷の防御をやめ、カデルの元へ突っ込んでいく。
「弾くのをやめたの?でもそれじゃ致命傷を負うわよ。」
カデルがチャトラに無数の氷の礫を放つ。
「攻撃は最大の防御っていうじゃないか。」
チャトラがさらに加速し、消えた。
カデルの目の前に現れたチャトラが剣を振る。
カデルは体を少し後ろに傾けた。チャトラの剣は空を斬る。
「っ…!?」
「ちゃんと足元を見ないとダメよ。」
チャトラの足はカデルの放った礫により凍り、パキパキと足を蝕んでいく。
カデルの短剣が刺さる前にチャトラは足元の氷を砕き、距離をとった。
「ごめんシャンス…決めきれなかった…時間切れだ…」
チャトラがシャンスから離れる。
「十分だ。後は任せろ。」
「あら、次は私のかわいい息子が相手?でもあなたじゃ私に傷はつけられないわよ。」
「誰が息子だ。俺の親はフォルスだけだ。」
シャンスがフォルスの剣を構える。
「まぁ。すごい殺意。本当に憎んでいるのね。お母さん悲しいわ。」
シャンスがカデルを無視して走り出す。
「その殺意、無くしてあげるわ。」
カデルがシャンスを見つめる。
「…っ!?あなた目を…」
シャンスは目を瞑ったままカデルの気配だけで突き進んでいく。
「いい方法だけれどもそれじゃ避けられないでしょう?」
カデルの魔法が飛んでいく。
「がうっ!!」
チャトラが咆哮で氷を消し飛ばす。
「今だよ!シャンス!!!」
「サンキューチャトラ先生!!」
「鬱陶しい。アイス…うっ…」
突然カデルが頭を押さえ、詠唱していた魔法が止まる。
「今のうちよシャンス…」
優しい声が響くと同時にフォルスの剣がカデルの心臓を貫いた。
「ありがとうシャンス。さすが私とあの人の息子ね。」
口から血を吐きながらカデルが喋る。
「は?…何言ってるんだ…?」
「アイリスに洗脳されて…私は…この手で…あの人を…」
「お前は魔王軍で…それに息子って…」
正気に戻ったカデルが涙を流しながら話し始めた。
カデルは魔王の命を受け、王国の戦力を削ぐためフォルスに近付いた。
だが、一緒にいるうちにフォルスにだんだんと惹かれていった。
10数年がたち、フォルスと共にいることが当たり前になったころ、シャンスを身ごもった。
それをフォルスに伝えられぬまま、ついに魔王からフォルスを殺せと命令が下る。
カデルは命令を無視し、フォルスの元を離れ、人知れずシャンスを産んだ。
だが魔王の追手が迫り、逃げ切れないと悟ったカデルは生まれたばかりのシャンスをフォルスの牛舎に預け、魔王城へと向かった。
「カデルよ。命令を無視し、今まで何をしていた。」
「申し訳ありません魔王様。私はフォルスを、彼を愛してしまいました。命令には従えません。」
「ほう。カデルを丸め込むとは王国の騎士団長もなかなかやりおるわ。だがワシに背いた報いは受けよ。」
魔王が魔法を唱え、カデルは氷漬けにされる。
「保管庫にでも入れておけ。放っておいて構わん。」
そう言い残し、魔王は自室へ戻っていった。
それから20年がたち、忘れ去られたカデルの元へアイリスが現れる。
「あー!カデルちんじゃあん。いないと思ったらこんなところで氷漬けにされてたんだ。」
アイリスが氷を撫でる。
「きゃはっ。いいこと思いついたわ。」
アイリスが魔力を流し、カデルの氷を溶かす。
「お目覚めだよ。お姫様。」
「…アイリス。どれくらい時間がたったの?」
「20年よ。魔王様に凍らされてたから変わってないねぇあんた。羨ましいわ。」
「20年…それで…なんで私を解放したの?」
「とってもいいことを思いついたのよ。魔王様もきっとお喜びになられるわ。」
アイリスの紫色の霧がカデルをつつむ。
「…!?アイリス!!!何を!!!」
「フォルスを殺しなさい。久々の再会だもの。きっと隙だらけよ。」
「いや…嫌よ…アイリス…やめて…あの人だけは…」
「ふふ。心配しないで、あなたが隠した息子もあなたに殺させてあげるから。」
「!?」
カデルの目の光が失われ、カデルの意識は心の奥底へと閉じ込められた。




