忘却と髭と髭と髭
最初からちゃんと書いておけよと言われても仕方ないことですが、後から思いついたり間違いに気づくので暖かい目で見ていただきたい。
結構大幅に投稿した内容を変更することがあれば次の話の前書きで報告します。
よろしくお願いします。
カルアの前でパンツ姿を晒してしまうという勇者にあるまじき痴態を乗り越え、勇者シャンスは王城へたどり着いた。
「失礼します!勇者、ただいま戻りました!」
金色の装飾が施された大きなドアをノックする。
ガタタッと音を立てて2分がたった頃、入れとお声がかかる。
「ハァ…おお…勇者よ…よくぞもどったな…ハァ…」
「3回戦突破してんじゃねぇか!!!」
そこにはバスローブを適当に羽織ったコウン王国の国王チョラックが息を切らし、何事も無かったかのように玉座に座っていた。
「それで…頼んでいた物は手に入ったか?」
シャンスはここで勇者が村に来ていた目的と勇者に託された内容を思い出した。
「君にしか頼めないと言っただろう…魔王は心配ない…しばらく回復に時間がかかるはずだ…私が死んだらこの装備と剣をもって王国へ向かってくれ…チーズを…忘れないでくれ…」
「チーズを…忘れないでくれ…」
やっちまったなぁ?
だいたいあいつが悪いと思うんだよ。勇者になれの次のお願いがチーズなんて100人中100人が忘れてしまうに決まっている。前半の衝撃がデカすぎる。
「あの…国王陛下…チーズですが、大変人気の農作物でして、今熟成中で完成しているチーズはないそうです。次に完成するのは3日後らしいので、また3日後私が買いに行こうと思います。」
もちろん嘘である。これから先、偽物勇者シャンスがつかなければならない嘘は無数にあるだろう。
今回がまずその第1歩である。その相手が国王であることにシャンスも冷や汗が止まらない。
チーズが手に入らないと知り、村を焼き払わないかビクビクである。そういうタイプの王様多いじゃん?こういうのって。
「そうか…熟成中か…ならば仕方ないな。残念だが、3日程であれば、わしも待つとしよう。」
驚いた。我慢できるタイプの国王だ。お楽しみタイムは我慢出来てなかったのに…
そしてシャンスは1番重要な報告へと話を進める。
「ところで国王陛下。チーズを買いに行く道中で魔王と遭遇致しました。」
「なんと!!それは誠か?なにゆえ魔王がそのような村に出現したのだ!」
それは元勇者も魔王に言われていた。
魔王の理由は転移の魔法石によるランダム転移。魔王のきまぐれである。
勇者はチーズのおつかい。
それに巻き込まれ、勇者になってしまった不運のシャンスがそれに応える。
「あの魔王のことです。転移の魔法石でランダムな位置に転移し、そこにいる人々を襲おうとしたのでしょう。」
「なんともいい加減な…魔王とは自分の欲望に正直な猿のような下劣な存在だな。」
さっきまで猿みたいだったお前が言うんかいとシャンスは思ったが勇者の肩書きでもさすがに首が飛ぶのではと思い。こらえた。
「そして魔王と戦い、首に負傷を追わせましたが、あと一撃のところで魔王の部下が現れ、逃げられました。」
「そうか、お前が無事で何よりだ。よくぞあの魔王と戦い、負傷を与えた上、無傷で帰ってきたものだ。」
シャンスの心が震える。
魔王を瀕死に追いやったのは本物の勇者。だがその勇者も魔王の攻撃により命を落としてしまった。
この事実を知るのはシャンスだけ。
勇者が死ぬ前に魔王は転移したため、勇者健在の報せは魔王城にもいずれ届くであろう。
それはまだ先の話だ。
「ありがたきお言葉。魔王も体の回復のため、少しの間は動かないと思われます。」
「そうか。ではチーズが食べられるな。」
キラキラした目でこちらを見つめてくる。
あ、やっぱダメなタイプの国王だわ…
「私としては魔王が回復するまでの間、もっと力をつけて、仲間を集め、次こそは魔王を討ち取りたいと思っております。」
シャンスが覚悟を決めている。村のみんなを守るため、みんなの大事な人、物を守るため、魔王と戦うと。
「うむ。よくぞ言った。では国王直属の騎士が己を鍛えるために挑むダンジョンがある。そこで来るべき魔王との決戦に向け、修行するがよい。」
ん???
シャンスの目が丸くなる。
話には聞いたことがある。王族の騎士様が己を鍛えるためのダンジョン。
そのレベルは45。
シャンスのレベルだって?
3だよ。
3。3である。
コウン王国の外にあるそのへんの草むらに出てくるスライムのレベルは4である。
スライム以下である。そんなシャンスが騎士ダンジョンなど自殺行為などという可愛いものでは無い。
「こ、こここ、国王陛下。私にはそのようなダンジョンは勿体ありません。そちらのダンジョンは騎士達の修練の場です。勇者の私が入っていいような場所ではありません。」
必死である。そりゃそうである。レベル3がレベル45のダンジョンへ入る。どれだけ逃げるコマンドを押しても逃げられるわけがない。
「はっはっは。遠慮するでない。騎士達にはわしが話を通しておく。魔王を倒すのであろう?ではあのようなダンジョンが1番手っ取り早い。お主の防具と剣があれば、あの魔物もひとひねりであろう。はっはっはっ。」
マジで髭1本ずつ炙るぞこの国王。なんだその髭。どこに向かってるんだよ。
国王の髭はよくある貴族の髭。あの公爵みたいな人がぴよーんってするやつ。の髭の先端が以上に長く斜め上に伸びている。
髭ラリアットが出来そうだ。
「あ、ありがとうございます。では私は魔王との戦いで消耗した体力を回復せねばなりません。ダンジョンへ挑む仲間も探さねばなりませんし。これにて失礼致します。」
「うむ。そうか。たしか宿は南のヤスンデッ亭だったな?」
「へっ?あっ…はい。そうです。」
「わかった。また用事かあればそこに使いを送ろう。」
「失礼します。」
とんでもないことになった。
シャンスは無駄にのびた国王の髭を脳内で炙りながら王城を後にした。




