鉄黄熊の指名クエストと防寒着。
「チャトラ先生。二刀流とかいかがかね。」
朝、頭を爆発させたシャンスが同じく毛なみを爆発させているシャンスに質問する。
「かっこいいとか思ってるんでしょ。ダメだよシャンス。君がフォルスから習ったのは一刀流の剣でしょ。また一からになるし、教えてくれる人もいないでしょ。あと二刀流の主人公とかもう有名な人がいるから。」
最後の方は分からなかったが、チャトラ先生の言うことは正しい。
「ちぇっ…二刀流だめかぁ。…じゃあ三刀流は…?」
「もっとだめだよ。二年後に片目なくなるよ。」
「三刀流にしただけで!?」
チャトラから恐ろしいことを聞き、シャンスは一刀流で戦うことを決める。会長から貰ったイグニスの剣はサブとして持っておこう。
「おはようございます。シャンス様。」「おはようでござるよ。」
シャンスの部屋をノックして、カルアとメビウスが入ってくる。
「シャンス様!今日は何を焼くんですか!?」
カルアがわくわくしながら杖を握っている。
「焼くって表現やめなさい?もらった依頼はほとんど片付けたから、ギルドの受付に聞きに行こう。」
そういってシャンス達はギルドへと向かった。
「あら、勇者様。昨日はヴァンパイア討伐。お疲れさまでした。」
「ああ。ありがとう。これでもらった依頼はすべて終わってしまって、何か他にクエストはあるかい?」
「!!それでしたら勇者様指名のクエストが今朝届いてますよ!」
「俺指名のクエスト?内容は?」
「…鉄黄熊「アイアンベア」の討伐。場所は王国北の雪原地帯。数は不明です…」
「アイアンベアか…わかった。今日向かうよ。」
「ありがとうございます。依頼者には私から伝えておきます。」
シャンスはギルドを後にし、外で待っていたカルアは露店で買ったチョコバナァナァを手に持っていた。
「おはえひなはい!いいくえふとありまひたか?」
「ちゃんと食べてから喋れ?」
ハムスターのようにチョコバナァナァを頬張るカルアが食べ終わるのを待つ。
「…んっ。いいクエストありましたか?」
「俺指名のクエストが来てて、アイアンベアの討伐だよ。」
「雪原地帯の暴れ熊ですか?相手にとって不足はありません!ふふ。」
カルアが怪しげな笑みを浮かべ杖を構える。
「姫。雪原地帯はとても気温が低い、そのようなお姿では一瞬で雪だるまでござるよ。」
「私北の村出身だから結構平気だよ?」
カルアが手を広げてその場で一回転して見せる。
「いや、アイアンベアの生息地は雪が激しいらしい。一応対策として防寒着をそろえよう。」
「それならミルクのお店に行ってみませんか?防寒着はいろいろ揃えてると思いますよ。」
カルアの妹、ミルクがいる商店へと歩いていく。
「あら、シャンス様とおねぇちゃん。いらっしゃい。」
商店につくと長い赤髪をツインテールにしたカルアの妹、ミルクが出迎えてくれた。
ミルクは魔法の才能はないが、商人としては天才ともいえる才能で商会を継いで2年でストローハット商会に追いつく勢いである。その性格は落ち着いていて、中身は姉のカルアより姉らしい。
「ミルク!久しぶり!!!防寒着頂戴!」
カルアがミルクに抱き着く。
「ちょっとおねぇちゃん。仕事中だから。防寒着ね。チャトラちゃん達のも?」
「あるなら一緒に頼むよ。メビウスのもあるのかい?」
「ドラゴン用までとはいかないけどペットのトカゲ用の服があったはず!それをちょっと改良すればめーちゃんにも合うはずよ。」
「トカゲ用…」
メビウスが何とも言えぬ表情をしている。
「はい。これがおねぇちゃんとシャンス様の分。それでこっちがチャトラちゃん。」
奥からミルクが戻ってきて暖かそうなコートを2着と猫用のフードがついた起毛のパーカー。そしてトカゲ用のジャンパーを持ってきた。
「めーちゃんは翼があるからね。ここをこうして…」
みるみるうちにメビウスの体に合わせてミルクが調整していく。
「できた!めーちゃん着てみて。」
「…御意。」
元トカゲ用というのが引っかかってはいるがミルクに押され、ジャンパーを着る。
「似合うじゃない。さすが私。」
「かたじけない。小さき姫よ。」
トカゲ用という言葉を未だ引きずりながらメビウスの後ろの試着室から二人と一匹が出てくる。
「めーちゃん似合ってるよ。」
「すごいな。本当にぴったしじゃないか。」
「僕ほどじゃないけどメビウスもかわいいね。」
チャトラがフードを被り、くるりと回って見せる。
「ありがとうミルク、いくらだ?」
「おねぇちゃんと恩人シャンス様のお願いですもの。タダですよ。」
「それは悪いよ。なにかできることがあったら言ってくれよ。」
「では私とデー…」
「ミルク!??何言ってるの!???」
カルアが割って入り、ミルクを奥へと連れていく。
「あら。なぁにおねぇちゃん。早くしないと私がシャンス様貰っちゃうわよ。」
「っ…!?本当にこの子は…楽しんでるんでしょう?」
「おねぇちゃんは分かりやすいのよ。シャンス様は気づいていないみたいだけど。」
カルアの顔が真っ赤になっている。
「とにかく、もっとアピールしなきゃ私が奪っちゃうんだからね。」
「バカミルク…もう…」
にやにやと笑うミルクをカルアが睨む。
こうしてミルクの商店で防寒着を手に入れた二人と二匹は北にある雪原地帯、アイアンベア討伐に向かう。




