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運がいいだけの偽物勇者  作者: 麦瀬 むぎ
第二章 父親
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動揺と号泣。優しいぬくもり。

フォルスの家へとたどり着いたシャンス達はキッチンで倒れているフォルスを見つける。


「親父!!!」「お師匠!!!」


シャンスとチャトラ、ジークが駆け寄り、シャンスが仰向けになった体を起こす。


胸には短剣が刺さったままで、周りには血だまりができている。


「お師匠が簡単にやられるはずがない…あの人は王国最強と謳われたお方だ…」


ジークが立ち尽くし、拳を握る、噛み締めた口からは血が流れる。


シャンスがフォルスの顔に残る涙の後を見つける。シャンスの脳裏にある仮定が過る。


だがそんなはずがないとかき消した。


「親父…嘘だろう?死んでなんかねぇよなぁ…?」


震えるシャンスの手がフォルスの胸に開いた穴へと伸びる。


冷たくなった体、白くなった顔、そして脈を打たなくなったフォルスの心臓を手で感じ、改めて父親の死を実感する。


「なん…でだよ…ふざけんじゃねぇ、また剣の修行つけてくれって…昨日言ったばっかじゃねぇか。」


父親の亡骸を視界に入れておくことができなくなり、シャンスは家を飛び出す。


「シャンス様!」


カルアが後を追って出ていく。






「シャンス様!」


カルアに呼び止められ、この前チャトラと話した丘の上でシャンスは足を止める。


「カルア…へへっ。悪いな、かっこ悪いところ見せて。ちょっとびっくりしただけだ。なんてことな…」


強がるシャンスが言い終える前にカルアの優しい手がシャンスを包む。


「いいんですよ。かっこ悪くたって。辛いんでしょう?悲しいんでしょう?なら泣いたっていいんです。叫んだっていいんです。今はそうしたほうがいいと、私は思います。」


カルアの優しい言葉と包まれる手によって、こらえていた感情が爆発する。


「親父が…親父…とうさっ…」


一粒流れた涙を皮切りに、シャンスの目から次々とあふれ出す。


「うう…うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


シャンスは声を上げ、涙も鼻水も体の水分全てを絞り出すように、カルアの胸で泣いた。


月に照らされた丘の上で重なる二人の影が移動する月と一緒に形を変えていく。


「落ち着きましたか?」


ひとしきり泣いた後、カルアがシャンスに尋ねる。


「…っ。ああ…ありがとう…カルっ…ア。服…ごめんっ…」


「本当だ。カピカピですね。でもいいんですよ。私もシャンス様の服カピカピにしたことありますし…おあいこですね。」


シャンスの涙と鼻水を吸った服をパタパタとさせながらカルアが笑う。


未だ泣いたことによる横隔膜の痙攣を必死に抑えながらシャンスは話始める。


「親父は…父さんは、捨てられていた赤子の俺を拾って育ててくれたんだ。」


「はい。」


「父親だけで育ててくれて…反抗期も当然あったし、言うこと全然聞かなくて…迷惑かけたと思う。」


「はい。」


「本当に…大好きだったんだ。」


「はい。」


詰まりながらも必死に話すシャンスにカルアはただ優しく相槌を打つ。


「私もお父さんとはいろいろありましたし、最期に…言葉をもらいました。とても強くて頼りになる。魔法の言葉を。」


『ワシはもう死ぬ。死ぬとそれ以上、幸せだと感じられなくなる。でもカルア…ミルク…ワシがこの世に残したお前たちが元気に、楽しく幸せになってくれたら、ワシも幸せだ。忘れるな。死んだ人間の幸せを作るのは生きている人間だ。』


そういってカルアの父親は息を引き取った。


「死んだ人間の幸せを作るのは生きている人間…」


「そうです。だから前を向きましょう。歩きましょう。シャンス様のお父様。大切な人を幸せにするために。」


シャンスの心臓を締め付ける鎖のような負の感情がゆっくりと解かれていく。


「できるかな。俺に…父さんを幸せに…」


「やるしかないんですよ。それにシャンス様は勇者です。できなきゃおかしいです。」


カルアの言葉に励まされ、シャンスは立ち上がる。


「ジークとチャトラの所に戻ろう。」


「そうですね。」



二人はシャンスの家へと歩いて向かった。


「シャンス殿。平気か?」


心配するジークに目を真っ赤にはらしたシャンスが答える。


「ああ。ありがとうジークさん。」


チャトラがシャンスの肩に飛び乗り、顔を頬にすり寄せてくる。


「チャトラも…ありがとな。」


シャンスはフォルスに近づき、動かなくなった体を抱きしめる。


ありがとう。父さん。後は俺が、幸せにしてやる。


耳元でそうつぶやき、フォルスを寝かせた後、リビングに飾られているフォルスの剣を手に取り、鞘から抜いた。


現役から退いて20年経った今も、フォルスの剣は丁寧に手入れされ、金の装飾が施された柄と銀色の輝きを放つ剣。その剣の根元に文字が彫られていたのを見つける。


「っ…」




『ワシが死ぬとき、この剣を最愛の息子。シャンスに託す。壊すんじゃないぞ。』




再びこみあげてくる涙をぐっとこらえ、父の剣を腰に装備する。



「ありがとう。」



父を失った偽物勇者シャンスは歩き始める。



亡き父の幸せを作るために。


さのです。昨日虎太郎さんにレビューをしていただき、21時~23時の間だけでアクセスが433となっておりまして、目に入った瞬間開いた口が塞がらなくなりました(笑)


ブックマークも昨日だけで7名の方が登録してくださり、本当にありがとうございます。


やはり、自分の拙作が多くの方の目に入るというのはうれしいものでして、モチベーションがダダ上がりしております。


物語はこれにて2章を完結いたします。本日の更新は未だ2話なのですが、自分自身がこの悲しさや希望の余韻に浸っていたいというわがままで、今日はこの話で終わりにさせてください。自分勝手な都合で申し訳ございません。


これからもシャンス達の物語を暖かく見守っていただけるとありがたいです。




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