肉を切らせて骨を断つ。そしてカルアの治療。
「っ…!?」
翼を貫かれたメビウスが地面へ落下する。
「メビウス!!」
チャトラが叫ぶ。
「この剣はただの仕込み杖ではない。何層にも重なった剣で伸縮自在の非常に便利な代物だよ。」
剣を元の長さに戻したニルが剣についた血を舐める。
「やはり黒龍の血は美味である。少々ゴミクズの血が混じっているがな。」
「姫を…愚弄するのは…許せぬ。」
貫かれた翼から血が流れだす。
めーちゃん!
メビウスにカルアの声が響く。
「かたじけない。まさかあれほどの回復力とは。」
飛行能力を失ったメビウスが立ち上がる。
「私は不死身なんだ。君たちのような常命の下等生物とは違うのだよ。終わりにしよう。」
ニルが剣を構える。
チャトラ先生!俺と変わってくれ。
「…!?何を言ってるんだシャンス!君じゃあいつに勝てないよ!」
策はある。あいつは魔力を制御する源みたいなのを血液みたいに体の中で動かしてる。それを叩く。
「本当かい?でもどうやってその源を見つけるんだよ。」
そこは…勇者シャンスの主人公力をだな…
「感なんだね…危険すぎるけど、今はシャンスの運にかけるしか手がない。わかったよ。」
チャトラがそういうと主導権がシャンスへと戻る。
「ここからは俺が相手してやる。覚悟しろや。ゴミクズ野郎。」
「感情を捨てた私でもゴミクズにゴミクズといわれるのはいささか遺憾だよ。」
シャンスが地面を抉って踏み込み、一瞬でニルへの距離を詰める。
フォルスから教わった移動方法だ。
そのままの勢いでニルの左腕を吹き飛ばす。
「無駄だと言っただろう。」
ニルが右手の剣を突き出し、シャンスの左肩が貫かれる。
「シャンス殿!!」シャンス様!!
メビウスとカルアが叫ぶ。
「いってぇ…けど。これで逃げれねぇよな。」
シャンスに突き刺さった剣を抜こうとするがシャンスの右手によって邪魔される。
ニルに貫かれる瞬間に空へと投げたシャンスの剣が落ちてくる。
「メビウス!黒炎!」
「…!?御意!!」
シャンスに呼ばれたメビウスがシャンスの剣へ黒炎を放つ。黒い炎に包まれた剣を左手でつかむ。
「おるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
自分の感を信じてニルの脇腹へ突き刺した。
「…え?ごほっ…」
目を見開いたニルの口から血があふれてくる。
シャンスは剣を強く握り、ニルを蹴飛ばした。剣先には切れた割れ目から魔力を放出するクリスタルが突き刺さり、黒炎に灼かれていた。
「な…なんで…クリスタルが…」
「勇者シャンス様の運を舐めるんじゃねぞ。感だ。」
「感…だと…そんな方法で…この私の不死身が破られるというのか…馬鹿な。」
「馬鹿はてめえだ。自分の再生能力にあぐらかいて、俺の攻撃避ける気がなかっただろ?主な攻撃方法がカウンターってのは強いやつがやることなんだよ。お前はただ死なないだけでただ自惚れた。それがお前の死因だよ。ゴミクズ野郎。」
クリスタルとシャンスの剣を灼きつくし、黒炎が消滅する。
「私が…死ぬ?馬鹿な…いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!痛いぃぃぃぃぃ!!!!痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!ああああああああああああああああ!!!!!!!!」
不死故に失っていた痛覚と感情が蘇り、死への恐怖と壮絶な痛みがニルを襲う。
斬られた脇腹と左腕から尋常じゃない量の血で周りを染めながら、ニルは動かなくなり、魔力の霧となる。
「シャンス!」
チャトラが憑依を解きシャンスへ駆け寄る。
「いってぇぇぇ。」
シャンスの左肩にはニルの剣が突き刺さっている。
「シャンス様!」「シャンス殿!」
こちらも憑依を解いたカルアとメビウスが駆け寄ってくる。
「このままポーション飲んじゃうと再生したそばから剣に肉を切り裂かれちゃいます!!!」
「なにその怖い話!!!抜いて抜いて!!!いだだだだだだだ。」
カルアが剣の柄を握り、思いっきり力を込める。
「姫!!そのように抜いてしまってはシャンス殿が…」
「あの…?カルアさん?ゆっくり…」
シャンスが言い終わる前にカルアが勢いよく剣を引き抜いた。
「ああああああああ!!!!!!!!!いっでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
シャンスの肩から血が噴き出す。
「シャンス様うるさい!!!男の子でしょ!!!」
「姫…今のは誰でも叫ぶと思うのでござるよ…」「カルア…さすがに今のはかわいそうだよ…」
「え?だってじわじわ抜いてたらずっと痛いじゃない。こういうのは一気に抜いたほうがいいっておばあちゃんが言ってたの。」
「それ絶対剣とかの話じゃねぇ…てか誰か血止めてくんない?カルア以外で。意識飛びそう…」
カルアに治療はこれから先絶対任せないと心に決めたシャンスであった。




