門番とトメィトゥとバナァナァとガシャン
王国へと続く道を、勇者から譲り受けた鎧を着込み、剣を携えたシャンスがガシャンガシャンと歩いていた。
正確にはシャンスには勇者の鎧を纏うだけのステータスが足りず、鎧の前面にジーッてなるやつがついていたのでそれを開き、羽織っていた。
「勇者の鎧ってジーッてなるやつついてるんだな…」
腰鎧と足鎧はシャンスの体には合わず、装備扱いにはされないので腰に手を当て腰鎧と足鎧を持って歩いていた。
幸い、腰鎧には装備できたため、剣は腰鎧の左側にしっかりと携えている。
「冗談じゃねぇ…これじゃ勇者のコスプレじゃねぇか…それも不完全の…
勇者の鎧と剣なんだから必要ステータスとか無視して着た瞬間最強の力を思うがままにできるとかじゃねぇのか…」
そんな都合のいい装備なんかあるわけないだろう?
どこからか勇者の声が聞こえて、どこか笑っているようにも聞こえた。
「なにわろとんねん!!」
シャンスの怒鳴り声とともにガシャンと足鎧がずれ落ち、上半身は鎧、下半身はパンツのなんとも格好悪い勇者が誕生する。
「はぁ…勇者になった以上、もうシャンスとしては生きられないし村にも戻れないだろうなぁ…」
別人になるという、それも勇者の、鎧も含めて村人には二つの意味で重すぎる荷を背負わされたシャンスはまた、ガシャンガシャンと音を立てながら王国へと向かうのである。
村から王国までは30分程あれば余裕でたどり着ける場所だ。だが鎧を装備…鎧を持っているシャンスが王国に着いたのは歩き始めて2時間たった頃であった。
「勇者様!お帰りなさいませ!」
国の門番に声をかけられ、持っている鎧が落ちてパンツ姿にならないのを願いながらシャンスは門番の元へ向かう。
「国王は王城か?」
「はっ。王城にて、お妃様とお楽しみ中であります!」
「お楽しみ中て。なんで門番がそんな情報まで知ってんだ。」
「はっ。国王様が『わしはマイハニィといちゃいちゃするのでな。勇者に頼んだ物が来るまでは決して誰も通すな。』と。」
「国王そんなオープンなん???そして今行ったら嫌な場面に鉢合わせしそうで嫌なんだけども???」
前半の衝撃が強すぎてシャンスは勇者に頼んだ物の存在を忘れていた。
「はっ。現在国王様はお妃様と2回戦に突…」
「いらんいらん!!!そんな情報!!!」
「はっ。ところで勇者様、いつもと口調が違うと思うのですが、それに鎧をしっかりと着ていないし…どうかされましたか?」
やってしまった。自分が勇者だというのをすっかり忘れ、シャンスとしてツッコミを入れてしまった自分を恨む。
「えっ??あっ???ああ…僕とした事が、すまない。忘れてくれ。鎧は…えっと…暑くて…とにかく、門を開けてくれ。」
「はっ。承知致しました。おい!門を開けろ!!」
門番の声で王国への扉が開かれる。
門の中には王国外から野菜や油を売りに来た商人や冒険者達が王国に滞在するための手形を発行する役所がある。
「納得いきません!!どうして滞在させてくれないんですか!!」
役所に鳴り響く声。
「もういいです!!」
怒鳴りながら出てきたのはボブほどの長さの赤い髪の端正な顔つきの女性。魔術師のようなローブは紅の色をしておりフード部分には金色の模様が入っていた。
「どうかしたのか?」
シャンスは基本的にお節介である。この性格は勇者には向いていると思うが、ステータスや強さは村人Aである。
「あ、勇者様。実はこの女が王国内で商いをしたいと申しておるのですが…今王国内には王国外からの商人が無数におりまして、全てを受け入れてしまうと供給が過多になってしまい、物価が下がったりなんやかんやで大変なのです。なので少量の売り物だけですとただ市場の圧迫にしかならないので、それを説明していたのです。」
「なるほど。そこの…えっと…」
「カルアです。」
「ん。カルアさんの売りたいものってどれ??」
「私の村から持ってきたトメィトゥとバナァナァです。」
カルアが小さい荷馬車からトメィトゥとバナァナァを持ってきた。
トメィトゥとバナァナァは皆さんもよく知っているあの野菜と果物のようなこの世界の食物です。
シャンスはトメィトゥを1口かじってみる。農薬の味もせず、芳醇な甘味の中に程よい酸味があり、とても上質なトメィトゥだった。
「美味しいな。この人を通してあげなよ。」
「…勇者様がそう言うのであれば…承知致しました。」
役人は渋々カルアの通商手形に判を押し、カルアへと差し出した。
「じゃあ俺…じゃなかった。僕は国王に謁見せねばならないのでここらで失敬するよ。」
シャンスができる限りのキザな勇者のモノマネをして、役所を後にする。ガシャンガシャンと肩に乗せただけの鎧を弾ませながら。
「あのっ!ありがとうございました!」
後ろからカルアが頭を下げていた。
「なんてことないよ。トメィトゥ、美味しかったよ。また今度買わせて貰うよ。」
勇者のモノマネをしたシャンスが後ろ手で手を振りながら歩いていった。
シャンスは忘れていた。
下半身の鎧は両手で持っていただけで装備など出来ていないことを。
…ガシャン




