修行を終えて王国へ、商人誘拐事件。
「サンキューな。親父。」
シャンスが照れ臭そうに頭を掻きながらフォルスに礼を言う。
「なんじゃあ急に。柄でもない。」
フォルスも照れ臭そうに頭を掻いている。
「本当の親子みたいだよね。二人とも。」
チャトラが照れて言葉が少なくなっている二人に茶々を入れる。
修行開始から10日。カルアがメビウスと出会って7日経った今日の朝。
修行を終えたシャンスとチャトラが王国に戻るため、荷造りを終え、フォルスと別れの時である。
「最初に剣を教えてくれと帰ってきたときは本気で殴っちゃろうと思ったんじゃがな。」
「いや、本気で殴っただろうが…4発も。」
シャンスは帰ってきたときに頭に3発、いにしえの森に行った事を話した時に1発もらったことを忘れていない。
「そうじゃったか?最近覚えが悪くての…」
空を見ながらフォルスがとぼける。
「まったく都合のいい頭をお持ちで…」
ガハハハと笑うフォルスにつられ、シャンスとチャトラも笑顔になる。
「おお!そうじゃ。これを持っていけ。」
フォルスが大きめの袋をシャンスに投げる。
「重っ…なんだよこれ。」
「うちのチーズじゃ。5日分はある。」
「1日分の摂取量は個人差あるだろうが…ってチーズ!!!!!」
シャンスはまたも忘れていた。国王へのチーズのお使いが7日もほったらかされていることに。
「なんじゃ?なんか忘れてたんか?」
「あ、ああ。助かったぜ親父。」
心の中でフォルスに感謝をしてチーズの入った袋を腰につける。早く届けなきゃ首が飛びそうだ。
「そろそろ行くか…チャトラ。」
「了解だよっ。まぁ僕はシャンスの肩で楽々なんだけどね。」
「馬鹿息子…いやシャンス。死ぬんじゃねぇぞ。親より先に死んだら生き返らせてもう一回殺しちゃる。」
「怖えこと言うなよ。まだまだ剣の修行つけてくんねぇとかわいいシャンスが死んじゃうぜクソ親父。長生きしてくれよ。」
「減らず口は直らんかったな。チャトラ!」
フォルスに呼ばれチャトラが振り向く。
「シャンスを頼む。こいつは心配ばかりさせる。」
「任せてよフォルス。僕がいる限りシャンスは死なせない。」
そういってシャンス達はチーズを王国に持っていくという使命をフォルスのおかげで思い出し、王国への道を歩いて行った。
…本当にありがとうな。父さん。
照れ臭くて長い間その呼び方はしていない。次に会ったときは呼べるようにがんっ…
フラグ立ちそうだからやめておこうとシャンスは思いながら振り返らず歩いて行った。
「せいぜい頑張れや。勇者シャンス。」
やはりフォルスには何もかもお見通しである。
シャンスは偽物勇者になるため、道の横に生えている林の中で勇者の装備に着替える。
「フォルス、いいお父さんだね。」
「…まぁな。」
「家族っていいものなんだなって思っちゃったよ。」
「チャトラももう家族だろう?」
シャンスの何気ない言葉にチャトラは目を見開く。
「ペットとして。」
「もうシャンスが危なくなっても助けてあげない。」
ふんっと拗ねたチャトラは腕を組みそっぽを向いた。
それを笑いながらシャンスは歩き、王国の門へと到着する。
何やら門番たちが忙しく駆け回っている。
「何かあったのかい?」
「勇者様!お戻りになられましたか!!実は…」
門番が言い終わる前に赤髪の魔術師、カルアが叫びながら走ってくる。
「シャンス様!!!チャトラちゃん!!!」
「おお!カルア!久しぶり!」
「お久ぶ…そんなことより、先ほど商人のキャラバンがオークに襲われて、妹もそのキャラバンに同行していたんです!!」
泣きそうな顔のカルアから事件の内容を知らされる。
「オーク!?場所は?」
「逃げ切った商人は王国から西にある小さな教会の廃墟付近で襲われたと。私もその話を聞いてすぐに準備してこれから助けに行くところです!」
「分かった。俺も一緒に行くよ。門番!馬を一頭貸してくれ!」
「はっ。すぐに準備します。」
門番が厩舎へと走り、ほどなくして馬を連れて戻ってきた。
シャンスとカルアはそれにまたがり、西にある教会の廃墟へと駆け出した。




