割れる水晶、昔話と契約。
カルアはその異様な黒に圧倒されながらも水晶へゆっくり近づいていく。
するとカルアが明かり代わりに使っていたファイヤーボールが形を維持できず、魔力の霧となって水晶に流れ込んでいく。
一瞬黒い光が強くなり、水晶が割れ、中から手のひらサイズの黒い龍が出てきた。
「拙者の封印を解いたのは其方か?」
「あなた喋るの?えっと…多分…」
「左様であったか。拙者の名はメビウス。魔法使いヨハンに仕えていた黒龍である。」
折りたたんでいた翼を伸ばしながら、黒龍、メビウスはカルアを見つめる。
「それって大賢者ヨハン!?その人が生きていたのってものすごく前のお話よ?」
「そうか…殿は既にこの世にはおらんのか。そうであれば拙者の主は今はいないということになる。其方は…」
「私はカルア。紅蓮石を取りにいく途中で溶岩に落ちそうになって、たまたまあなたの所へたどり着いたの。」
「紅蓮石とはまた懐かしい響きである。殿が作り出したあの魔法石のことであろう?」
「紅蓮石って大賢者ヨハンが作ったんだ…ヨハンも炎の魔法使いだったの?」
カルアにとって大賢者は憧れの存在。童話では王国に降り注ぐ隕石を消滅させた話もある。
「殿は魔力の全てを解読し、ありとあらゆる魔法を生み出してこられた。炎も氷も、すべての魔法を使えるお方だった。」
「すごい…でもどうしてメビウスはこんなところに封印されていたの?」
「カルア殿が申すには、あれから随分と時がたったのであろう。天災竜『イグニス』と呼ばれる一匹の竜が共食いを始めた。雷竜、氷竜、白竜。全ての竜がイグニスに襲われ、その命を落としていった。」
メビウスが真剣な表情で過去を思い出していく。
「拙者も黒龍の名を持つ竜であったがため、イグニスに狙われた。それを案じた殿は拙者をこの洞窟に封印した。その後は先ほどカルア殿に封印を解かれるまで、この水晶の中で過ごしていた。」
「そうだったのね。私の国に伝わっている伝説では、大賢者ヨハンはイグニスに挑み、その命を代償としてイグニスをクリスタルに変えたの。そのクリスタルは王国で保管されていて生活に使う魔力や作物の成長を促してるって伝わっているわ。」
「なんと。殿がイグニスを…。拙者がいれば殿はご存命だったのかもしれんのに…」
しゅんと首を落とすメビウス。
「あなたの主はあなたを、国民を守って命を落としたの。それだけじゃない。イグニスのクリスタルのおかげで国は豊かになり、今も王国は健在なの。だから悲しむんじゃなくてそんな主に仕えてたことを誇るべきだと私は思うなぁ。」
「なんというお優しきお言葉か…それだけで拙者も殿も報われる。」
えへへとカルアが照れる。
「それでメビウスはこれからどうするの?」
「封印が解かれた時はイグニスと打ち倒そうと思っていたが、事情がかわったようでござる。拙者は殿が守った世界を見てみたい。カルア殿、拙者をここから連れ出してはくださらんか?」
「歓迎するよ!豊かになった町や人、ヨハンが守った世界をこれでもかってくらい見せてあげる!」
「ありがたい。ではこれからはこの黒龍メビウス、カルア殿に仕えるとする。よろしくお頼み申す。姫。」
「姫なんて照れるなぁ…こちらこそよろしくねめーちゃん。」
「めー…ちゃん…??」
ここにカルアとメビウスの主従関係が成立する。まずはダンジョンの最深部、溶岩竜マグマドラゴンの住処へと一人と一匹は向かっていった。




