紅蓮石と無くしたスクロールと無駄遣いしたスクロール。
「杖と…ポーションと…困った時のスクロール!完成!」
口に出しながら忘れ物がないか確認している赤髪の魔術師。スクロールとは魔法を保存しておくことができる巻物で、王国の宮廷魔術師が魔法を保存し、露店や商会で売り物として並ぶものだ。
これを使えば自分が使えない魔法も瞬時にだせることが可能になる。
今回カルアが持っていくスクロールは、氷の上級魔法「アイススパイク」のスクロール10枚と「転移」のスクロール1枚の11枚。
「アイススパイク」はカルアが使う炎の上級魔法「ファイアボルト」の氷ver.で、宮廷魔術師の魔力で保存された魔法の威力は高い。
「転移」はこの前シャンスから譲り受けてくだいた転移の魔法石と同じ、緊急避難用である。
この11枚を買うのはカルアにとってなかなか痛手ではあったが、それ以上にカルアの興味を引くものがこれから向かうダンジョンにはある。
『溶岩竜の住処』
このダンジョンに入るには入り口で一定以上の魔力で炎魔法を扉へ放たなければならない。だがそこに生息している溶岩竜『マグマドラゴン』は炎魔法を無効化するダンジョンである。
パーティを組めば楽勝ではないかと思うかもしれないが、『溶岩竜の住処』の扉は一人が通った瞬間扉が閉ざされる。パーティを組んでの攻略は不可能だ。
当然、炎魔法バカであるカルアはダンジョンへ入れるが炎魔法ではマグマドラゴンを倒せない。
そこで出てくるのがカルアが購入したスクロールである。
これがあれば炎の魔法以外使えないカルアでもお手軽に高威力の氷魔法が放てるのだ。
そうまでしてカルアが手に入れたい物。それはマグマドラゴンを倒した先にある『紅蓮石』。
持っているだけで炎魔法の威力が上がり、魔力の消費が半分になるというチートアイテム。
「絶対欲しい。炎の魔法が今より強くなって放てる回数が二倍になるなんてすごい。」
目を輝かせながらカルアは荷造りを終える。
「私ドジだからなぁ。もう一回確認しよっと。」
生死にかかわる危険なダンジョンなので、念入りに荷物を確認する。
スクロールをほぼ確認した後、沸かしていたやかんが奇声を上げながら泡を吹く。
「ああっすっかり忘れてた!!」
慌てて火を止めるカルアの横で、一つのスクロールがベッドから転がり落ちていった。
カルアはそれに気づかず荷造りを終え、紅のローブを羽織り、ダンジョンへと向かった。
「あっづい…」
第一の試練。炎の扉を乗り越えたカルアは崖の下を溶岩がドロドロと流れる一本道をダラダラと歩いていた。
「涼しい服装でくればよかったよう…名前からして暑そうなのに…」
厚手のローブをパタパタしながらも溶岩はカルアの体力を奪っていく。
「いいこと思いついた!!」
おもむろにカバンを取り出し、カルアはスクロールを一つ取り出す。
「アイススパイク!!」
スクロールを唱えるとカルアの横にある岩に氷のトゲが突き刺さる。それを抜き取りカルアは氷のトゲを抱きしめた。
「はぁ…冷たい…ひんやり…」
宮廷魔術師の氷の上級魔法を、しかも今回のボスに使うべき魔法を涼むために惜しみなく使ったカルア。
彼女に大変なことをしてしまったという自覚はない。
氷の魔法あるからそれで涼めばいいじゃん。と何も考えずに使ってしまった。
彼女がドジと自負している部分は客観的にみればかわいいものだ。
彼女が知らない彼女の欠点はそういうところだ。
アイススパイクの冷たさに癒されながら進んでいくと溶岩のような鱗を身にまとったトカゲ。
『マグマリザード』がマグマの中から現れた。
熱せられた光る鱗は大気に触れたことにより輝きを失い、硬化していく。
「こんなところで引き返すなんてありえないから!!」
杖を構えたカルアが突進してくるマグマリザードに向け、ファイアボルトを放つ。
マグマリザードは一瞬戸惑ったが、炎の魔法であることを確認し、そのまま突進してくる。
マグマリザードにファイアボルトが直撃し、突進が止まる。
かと思われたが、鱗の輝きを取り戻したマグマリザードが燃えながら突進してきたのである。
「いっ!?嘘っ!?」
完全に直撃して手ごたえはあったはずなのに、カルアの炎魔法はマグマリザードの堅い鱗を熱しただけ。
マグマの中で生活している彼らにとっては避ける必要のないものだった。
「っ…!!フレイムウォール!!」
突進の衝撃に備え、炎耐性を向上させる魔法を唱える。
「っ…いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
マグマリザードの勢いを殺しきれず、カルアは崖から足が離れ、マグマの海へとふきとばされた。
「アイススパイク」のスクロール残り9枚、「転移」のスクロール残り???枚。




