修行3日目、そして紅の魔術師。
いつものベタなニワトリからの爆発である。
スッキリしたチャトラとシャンスはフォルスの朝ごはんを平らげ、修練場へいつもより早く向かう。
「昨日の本気のフォルスをずっと観察してたからね。僕にもできるはずなんだ。今日はシャンスにそれのコツを覚えてもらうよ。」
「よろしく頼むぜ。チャトラ師匠。ていうか、今の俺のレベルってどうなってるんだ?リコリスも倒したし、だいぶ上がったんじゃないのか?」
「リコリスを倒したのは僕だよ。経験値っていうのは命の終わり、つまりとどめをさした人に経験値が魔力の霧になって入っていくんだ。リコリスは僕の魔力を吸収しきれずに消滅した。自殺みたいなものだから経験値は誰にも入ってないよ。よって君はまだレベル3のままだよ。実力は修行のおかげでレベル20には近くなってると思うけどね。」
「リコリスの経験値が入ってないとかなんかもったいない気がするなぁ。きっと本当のレベル20くらいにはショートカットできたはずなのになぁ。」
「気絶して死にかけてた人が言うセリフじゃないよ…それにシャンス痛くて漏らし…」
「それは墓まで持っていって!!!チャトラさん!!!ねぇ!!!お願い!!!」
慌ててチャトラの口を塞ごうとするシャンスをするりと躱し、チャトラが悪い笑みを浮かべる。
「僕はシャンスの弱みを握っているということだね。そこでお願いなんだけど。」
シャンスは息を飲んだ。
「…今日のおやつのドライトメイトゥを2つにしてくれよ。」
「かわいいなぁ!?しかと承ったよチャトラ様。」
「よろしい。」
ムフフと微笑みながらチャトラは一回転して踊る。
フォルスが来る前の30分間でシャンスに憑依したチャトラが吊るされた丸太にフォルスの動きを真似て木刀を振る。
すげぇな。一回見ただけで完全コピーかよ。ほんとうちのチャトラさんはチート性能だよな。
「一回見た動きしかできないから完全にフォルスの太刀筋とまではいかないけどね。」
そうは言いながらも、次々とフォルスの技を丸太へと繰り出していく。
「じゃあシャンス。主導権を戻すから残った時間頑張ってね。」
ばっちり見てたし感じてたぜ。見てろよ?
チャトラから主導権を戻してもらったシャンスが丸太に向かい、見よう見まねで技を繰り出していく。
いい感じだねっ。体の使い方が分かってきたのもあるけどシャンスは覚えるの得意なの?
「いや、得意じゃないけどこれは何となくコツが掴めるみたい。」
なら運なんだろうなぁ。運がいいからコツを簡単に掴めちゃうんだ。シャンスの運って最近働いてないって愚痴ってたけどシャンスの意識外でちゃんと働いてるんだね。
「もっとちゃんと働いてほしいもんだよ。リコリスの時とかに。」
運が働いていれば、お漏らしは回避できたのになぁとシャンスは考えていた。
「早めに出たから何事かと思えば、今はチャトラか?」
後ろからフォルスが現れた。思わぬ質問にシャンスは剣を止めた。
「親父なんで知ってるんだよ?」
「今はシャンスか。一昨日のチャトラが憑依したお前の動きとチャトラの魔力を見ればわかるわ。チャトラとも話したぞ。」
そうだよっ。フォルスと一昨日シャンスが気絶して眠っている時に話したんだ。
チャトラの声がシャンスに響く。
「聞いてねぇよ。昨日の朝も今日も猫語だったじゃねぇか。」
だって猫っぽい雰囲気を出したかったんだもん。猫感強いほうがファンも増えたり…グッズ販売されたり…
「生々しいわ!そしてグッズとか言うな!」
ふざけるチャトラにシャンスがツッコミを入れる。
「まぁチャトラの憑依がないとお前がこんなに早く上達しないはずじゃしな。それにさっきの剣はワシの動きをチャトラが真似て見せたんじゃろう?」
ほんとにフォルスは鋭いよねぇ。ばれちゃったけど朝の特訓の成果を見せてあげようよ!
チャトラが少し残念そうにしている。修行中にフォルスを驚かせたかったのだろう。
「バレたんなら仕方ねぇ。チャトラ師匠の教え、思い知らせてやるよ。」
こうして今日もシャンスの修行が始まる。
その頃、王国の図書館に数日籠っていたカルアが冒険の準備を進めていた。
さのです。昨日ご感想をいただいたよっぴーさんに
シャンスのレベルについてですがリコリスを倒したのはシャンスに憑依したチャトラなのでチャトラに経験値が入っていると認識してもらえればと思います。
と返信させていただいたのですが、リコリス討伐時、経験値がチャトラに入ったという描写を失念しており、今話の経験値取得のシステムが回答させていただいた内容とは違ったものになっております。
間違った回答をしてしまい、誠に申し訳ございません。
それでもよろしければこれからも「運がいいだけの偽物勇者」をご覧いただけると幸いです。
長々と失礼しました。
次話からカルア編突入します。




