父の秘密、そして過去。
「そんな構え知らねぇぞ。」
「お前はこれを見せる前に修行を放り出したけぇな。」
騎士団団長の構えから、先ほどまでの動きとは何段階も上の速度と威力で繰り出される剣撃をかろうじて受け流す。
チャトラの憑依で体の使い方を覚え、動体視力が上がっているシャンスでも見えなかった。
ここに攻撃が来るであろうという予測の元、剣をそこに置いただけで、完全に受け流すことはできなかった。
「速ぇ…」
「これが本来のワシの剣じゃ。現役の時はこれより早かったけどのぅ。」
「現役ってここに来る前の事か?詳しく聞いてないんだよなぁ。」
「後で話してやる。今は剣に集中しろ。いくぞ。」
シャンスの質問を他所に、修行が再開する。
シャンスとフォルスの剣がぶつかる音は陽が沈むまで修練場から響いていた。
「いだだ…また全身打撲だわ。」
回復ポーションをがぶ飲みし、フォルスの剣で裂けたおでこへチャトラに絆創膏を貼ってもらう。
「今日は僕の憑依無しだったのによく頑張ったよ。ご褒美にもふもふしてもいいよ!」
「はっ…そんなの…お言葉に甘えるじゃねえかぁぁぁぁ!!」
チャトラのもふもふの尻尾を思いっきりもふもふする。
「ちょっ…シャンス…あははははははは!くすぐったいってば!!!あはははは!!」
「何をやっとるんじゃお前ら。ワシにも…ごほん。それより、お前が持って来たトメイトゥが腐りかけてたんでな。カットして乾燥させてドライトメイトゥにしてみた。これなら保存がきくぞ。」
「ほんと器用だよな。親父。」
感心しながらシャンスとチャトラがドライトメイトゥを一口食べる。
「…っ!!おいしい!!甘さがもっと増した気がする…」
「なーう!」
ふんっと自慢げなフォルスもドライトメイトゥを口にする。
「うわっ…ぺっ…もっと酸いくなっとるが!」
やはり普通の味覚を持つフォルスにはカルアの村のトメイトゥは酸っぱすぎたのだった。
「それで、親父が農場始める前の話、聞かせてくれよ。」
「ごほっ…ごほっ…そうじゃったな。ワシはカデルと出会い、ここに来る前は国王直属の騎士団の団長をしていた。」
「国王直属!?ほんとに聞いてねぇよ。」
「言ってなかったけぇな。お前は剣を真面目にやらんかったし。話す時がなかったんじゃ。」
フォンスの衝撃発言を素直に受け止めきれず、開いた口が塞がらない。
「ある日、国王の任務の帰りにカデルと会ってな。一目ぼれして国王と部下を説得して騎士団を抜けた。」
「…駆け落ちみてぇだなぁ?それにしても親父が騎士団団長…見えねぇ…」
「何年前の話じゃと思っとるんじゃ。もう20年以上前の話じゃ。それからは普通に村の子供に剣術を教えながら牧場生活じゃ。」
「母さんは…どんな人だった?」
「カデルは不思議な女でな、特徴がないのになぜか勝手に目が追ってしまう。そんな女じゃった。」
フォルスの顔が険しくなる。きっとカデルとの最後を思い出しているのだろう。
「仲良く牧場をやっていた時に、カデルが流行り病に罹ってな、どんどん弱っていく自分を見られたくなかったんじゃろうな。ある日帰ると置手紙と整理された部屋だけになっとったわ。」
「そうだったのか。俺を拾ったのはそれぐらいの時か?」
「そうじゃな。生きる希望を無くしていた時に、牛舎の中でお前を見つけた。不思議とカデルを見るときのように目が離せなくなってな。」
シャンスは生まれたばかりの時に捨てられていたため、物心ついた時にはフォルスが父親と思っていたが。20歳になった日の夜に、フォルスから真実を告げられた。
シャンスは衝撃を受けたが、本当の両親を探す気も起こらず、何より今まで育ててきてもらったフォルスに失礼だと感じた。
血のつながっていない自分を育ててくれたことに感謝し、フォルスの仕事をより手伝うようになった。
今日は親子と一匹で酒を飲む。もちろん明日に支障がないよう程々に。
その空間はとても暖かく、そしてゆっくりと時間が過ぎていく。




