鎧と剣と勇者とチーズ
時間にして1時間。魔王と勇者の戦いが続いていた。
林道で。
辺りは両断された木、焼けて炭になった木々で覆い尽くされていた。
勇者は魔王の凄まじい魔法の攻撃で、致命傷とも言える傷を体中に浴びていた。
しかし、魔王も勇者の聖剣の攻撃を捌ききれず、多くの傷を負っていた。
「ハァ…そろそろトドメと行かせてもらうよ。」
息は切れていたが、余裕そうに勇者が次の攻撃へと移行する。
魔王の懐へ飛び込み一閃。
魔王は攻撃を魔法の盾で防ぎきれず魔法の盾は宙に舞う。
「終わりだ。」
勇者は無防備となった魔王の首へ剣を突く。
肉を貫く音が聞こえた。
「がっ…」
その剣は首元を貫き、赤い血を垂らして止まっていた。
魔王ではなく、勇者の首を。
「我が魔法しか使えないと侮っていた。それが貴様の敗因よ。」
勇者の首に刺さった魔剣を魔王がゆっくりと抜き勇者を蹴り飛ばす。
「う…あ…」
勇者の首から血が流れる。
「上級魔法だけでなく剣まで…でも…致命傷はお互い様のようだね…」
魔王の首に勇者が聖剣の攻撃の後、左手で投げた短剣が刺さっていた。
「ぬぅ…聖剣が弾かれた瞬間に投げていたか…」
二人が同時に倒れる。
しかし、倒れたのは勇者だけで魔王は突然現れた角の生えた魔人によって支えられていた。
「ああっ…魔王様…すぐに魔王城へ戻って治療を。」
魔人は転移の魔法石を砕き、魔王とともに消え去った。
「がはっ…う…」
血を吐き倒れる勇者の元へシャンスが駆け寄る。
「おい!!まだ魔王は死んでない!!死ぬな!!!」
「君は…無茶を言うなぁ…勇者だって人間だぞ…首を貫かれたら死ぬさ」
首から流れ出る血を抑えながら勇者は最期の言葉を、今日最後のシャンスにとって不運な言葉をかける。
「君に…頼みたいことが…ある」
「チーズか!?届けてやるさ!」
「いや…君に…勇者を継いで欲しい…」
「ん?」
「私が死ねば…魔王に敵はいない…それに…国民には安心できる平和の象徴というものが必要なんだ…」
「えっと…俺に…勇者になれと????」
勇者は肯定の意味を含めて首を縦に振った。
「いやいや…いやいやいやいやいやいや。俺村人だし、勇者みたいにステータスも高くなければ強くもない。なんで俺なんだよ。」
「僕が死ぬことは君しか知らない…そして…頼める人が君しかいないんだ…」
「そんなことしたって顔も違うし、実力も違うし、絶対にバレるぞ。」
「心配ないさ…僕がこの仮面を外した姿は誰にも見られていない。見た事のある家族は…既に死んでいるしね。実力云々に関しては…君に頑張ってもらうとしか言い様がない。」
「頑張って勇者のように強くなって魔王を倒せと???村人に???もう1回言うよ???村人に???」
「君にしか頼めないと言っただろう…魔王は心配ない…しばらく回復に時間がかかるはずだ…私が死んだらこの装備と剣をもって王国へ向かってくれ…チーズを…忘れないでくれ…」
そう言って、勇者は命の火を消した。
「勝手なことばっか言って死にやがって。今日はとんだ厄日だ。運のステータスが思いっきり職務放棄してやがる。」
シャンスが悪態をつくが、勇者が死んだなどと王国に知られてしまうと国民が大混乱になるのはシャンスも分かっていたし。何より、勇者がいないのであればあの魔王のことだ。回復次第、王国に攻めてくるだろう。そうなればシャンスも村の皆も殺されてしまう。
シャンスは村の皆が大好きでこの幸せを奪われたくない。
今ここに、村人から勇者になったシャンスが誕生する。
覚悟を決めて勇者から貰った鎧に手を…
「ん???」
手を…
通せなかった。
「いや必要ステータス!!!!!!」
シャンスは鎧を地面にたたきつけた。