加速する修行、気づく父。
ニワトリの鳴き声でシャンスは目を覚ます。
「ベタな朝だなぁ。」
爆発した髪の毛を抑えながら横を見る。
「おはようシャンス。」
「おはようチャトラ。」
チャトラの毛もいろんな方向に爆発している。
「なんじゃお前らその頭。」
「寝相が悪かったんだと思う。」
「なーお」
「さっさと頭洗ってこい。すぐ始めるぞ。」
「うーい」「なーお」
フラフラと歩くシャンスの後ろをフラフラと歩くチャトラ。
一風呂浴びて目が覚めた一人と一匹。
「じゃあ…いくよ。」
「ああ。頼む。」
チャトラがシャンスに憑依して修練場へ向かう。
「じゃあはじめるけぇの。今日は少しくらい防いでみぃ。」
チャトラが構える。
フォルスがチャトラの顎を狙い飛び込んでくる。
それをチャトラは身を回転させギリギリのところでかわす。
「ほう。昨日よりはマシな動きをするようになったな。」
「昨日のアレで親父の剣筋は嫌という程見たんでな。」
シャンスのふりをするチャトラがフォルスの剣を避け、腕で受け流す。
チャトラさんすげぇ!!俺にこんな動きができるなんて。
チャトラの動き、筋肉の使い方、対処すべき場所を的確に見抜く視覚。次の剣筋を予測する脳。
すべてにおいて、シャンスがこれまで経験したことの無い戦闘技術である。
5分ほどフォルスの剣を防ぎ続けた時、フォルスの目が鋭く光る。
「シャンス。どうやらフォルスは少し本気を出すみたいだ。もう感覚は覚えただろう?これ以上は危ないし、主導権を戻すよ。」
は??そんな急に言われても…ちょっ、チャトラさん???
「はっ…」
意識のみだったシャンスに体が戻ってくる。
たしかに体の使い方はチャトラが見せてくれた。やってみる価値はある。
「いくぞ。馬鹿息子。」
さっきよりも数段早いフォルスの剣をシャンスはしっかりと目で追い、こみかみに向け飛んでくる攻撃を間一髪のところで避ける。
「やった!できるじゃん!!!」
フォルスの本気ともいえる一撃をかわし、シャンスはいつものように調子に乗ってしまう。
「んぐぇっ…」
油断したシャンスにフォルスの二撃目を防ぐ手段はなかった。
「まだまだ甘いんじゃお前は…」
構えを解くフォルスが腹を抑えて咳き込むシャンスを見下ろす。
「クソ親父が…ちょっとは余韻に浸らせろ…」
「浸っとる暇があるなら剣を見ろ。躱せ。受け止めろ。」
フォルスが再び構えをとり、シャンスに剣撃を浴びせる。
シャンスも負けじと剣を捌く。
体が覚えたこの感覚を、いつでも引き出せるように。
日が暮れるまでシャンスは剣を弾いた。躱した。
最後にフォルスの剣を両手で掴み、今日の修行は終わる。
全身筋肉痛の上に全身打撲。シャンスはポーションを飲み終えるとそのまま後ろに倒れる。
「修行が終わる度に気絶するんか。先が思いやられるわ。」
ため息をついたフォルスがシャンスを担ぎ家へと戻る。
どこからともなく現れたチャトラが昨日のようにフォルスの肩に飛び乗る。
「おおチャトラ。お互い不出来な弟子を持つのは大変じゃな。」
フォルスの一言にチャトラがまんまるの翡翠色の目を見開く。
「警戒せんでええけぇな。お前さんのシャンスを見る目は優しい。これからも馬鹿息子を頼む。」
フォルスは元国王直属の騎士団団長。気づかないわけがないのだ。急に動きが変わった息子とその隣にいるデタラメな魔力を持った不思議な猫に。
何もかもお見通しなのだろう。チャトラはため息をつくと。
「なぁーお」
と可愛らしい鳴き声をあげる。
「全く、不思議な子猫様じゃわ。」
フォルスが笑い、チャトラを撫でながら家に消えていった。




