告白と体験と明日の修行
「リコリスを…お前が殺した…?」
「正確には、気絶した君の体を使ってだけどね。」
眠かったはずの瞼はいつも以上に開かれていた。
「ち、ちょっと待ってくれ。なんでチャトラにそんなことができるんだ。エンシェントタイガーのはずだろ?」
「僕は偽物のエンシェントタイガーだよ。君だって偽物の勇者じゃないか。」
「そんな理屈が通るかよ。それに俺の体を使ったって?」
「体験してみれば分かるよ。今回は君の意識も保ちながら入る。」
「入るって何言っ…」
チャトラが魔力の光になり、シャンスに憑依する。
意識はあるのに体の主導権が侵入してきたチャトラに移る。
驚きを隠せないシャンスの脳内に声が響いた。
「こんな感じだよ。僕は他人に乗り移ることができる。こんなことだって可能だよ。」
チャトラはシャンスの体を動かし、2回側転をしてからバク宙。見事着地する。
「おまっ…チャトラ!!いだだだだだだだだ!」
「あっ…筋肉痛なの忘れてた…ごめんねっ。」
脳内に無邪気な声が響き渡る。明日の朝トメィトゥは抜いてやると思ったシャンス。
「トメィトゥを抜くのはダメだよ!??シャンスを労わってあげられなかったのは謝るから!ね?ね?」
聞こえてんのかよ…変なこと考えられねぇな。
「一時的とはいえ、シャンスと僕はひとつになったからね。自分の考えてることは分かるよ。」
それで、チャトラが俺を操作してリコリスを倒したんだな。
「そうだよ。シャンスの体がもつかどうか心配だったけどね。」
その副作用がこの異常な全身筋肉痛か…
「隠してて悪かったね。でもシャンスが勇者として覚醒して意識はないけど強敵を打ち倒すことができた!このまま魔王討伐に行こう!なんて考えたら大変だと思ってね。素直に話すことにした。」
ありそうだから自分がこええよ。
「それで、シャンスがこのまま修行をしても強くなるにはすごく時間がかかるんだ。」
なんでそんなことが言えるんだよ。
「シャンスに限らず人間という生物は脳、体のほんの少しの機能しか使わないんだ。まれに才能だったり鍛錬で機能を増やす人もいるけどね。村人のシャンスなんかほんとに平均的だ。ザ・アベレージだよ。だから、明日の修行は僕がやる。シャンスは体の使い方を脳で覚えるんだ。」
なんでそこまでしてくれるんだよ。チャトラにとって俺はそこまでの存在じゃないだろ?
「そうだね。ただのトメィトゥをくれる人だ。ただの気まぐれだよ。」
そう言い放ったチャトラの言葉とは別の感情がシャンスに流れ込んでくる。
僕にトメィトゥをくれた弱いけど勇気のある大切な友達。
「っ…!ねぇ!!シャンス!!だめだよ!!!」
シャンスから憑依をといたチャトラがポカポカとシャンスを叩く。
「勝手に流れ込んできたんだよ。そうかぁ。そう思っててくれたのかぁ。」
シャンスがニヤニヤしながらチャトラの頭を撫でる。
「うわっ…もうぅ他人の心を覗くなんて趣味が悪いよ。」
「他人の体を奪うやつに言われたくねぇなぁ??」
一人と一匹は笑いながらシャンスの家へと帰って行った。
 




