憑依と圧倒、そして消滅
ズシャッと音を立ててリコリスの腕が地面に落ちる。
「ひどいなぁ。なんで君みたいな猫に僕の腕を吹き飛ばす力があるんだい?」
リコリスは吹き飛ばされた腕を拾い、血が噴き出している腕があった場所へくっつけ、ツルで補強した。
「僕は特殊な猫でね。それに今僕は怒ってるんだ。」
チャトラが低い声でリコリスを威圧する。
「でも君のご主人様はもう虫の息だよ。」
リコリスが不敵に笑う。
「シャンスは僕のご主人様なんかじゃない。シャンスは僕にトメイトゥをくれる。ただそれだけの関係だよ。でも…シャンスを失うのは今じゃない。シャンス、少し体を借りるよ。」
そう言ってチャトラの体が光り始め、シャンスの中へと入っていく。
気を失っていたはずのシャンスの目が開かれ、立ち上がる。
「久々の人の体だ。ウォーミングアップにはちょうどいい相手だね。」
シャンスの体を借りたチャトラが立ち上がる。
「ウォーミングアップとは言ってくれるねぇ。君が特殊なのはわかったよ。他人の体に憑依する猫。魔王軍いきもの係として、実に興味深い能力だ。」
リコリスが新しい研究対象に不敵な笑みを浮かべ、ツルをチャトラに這わせる。
「馬鹿の一つ覚えだね。」
チャトラはシャンスの聖剣を一振り。全てのツルをたった一太刀で両断した。
「うん。やっぱりシャンスはいいものを持っている。しっかりと鍛えさえすれば勇者にさえ届きそうだ。なによりこの運の高さだね。適当に剣を振っても敵の急所を突いたりできそうだよ。」
シャンスの体でチャトラは背伸びをする。
「まるで僕のことなんか眼中にないみたいだね。素直に嫉妬するじゃないか。」
リコリスがわざとらしく泣きまねをする。
「ないよ。シャンスが僕の動きに長く耐えられないと思うから時間がない。」
聖剣を持ち直し、走り出す。
その速さに驚きリコリスは攻撃用のツルを防御にまわす。
だがチャトラはツルより速くリコリスの懐へ飛び込み、聖剣をリコリスの心臓へ突き刺した。
「ぐっ…」
リコリスが悲痛の声をあげる。
チャトラはリコリスの心臓に刺さった聖剣を強く握り、剣を起点にリコリスを上に持ち上げた。
「あああああああああ!!!」
リコリスの絶叫が森に木霊する。
「シャンスの分だよ。存分に味わうといい。」
「くそがぁぁぁ!!下等生物の分際で!!!」
「さっきまでの口調はどうしたんだい?余裕がなくなってるよ。」
「あああああああああああ!!!死ね!!!!死ね死ね死ね!!!!!」
「シャンスの痛みは分かってもらえたかな。もう死んでいいよ。」
チャトラが剣を握り直し、聖剣をリコリスの肩に向けて振り抜く。
鮮血が噴き出し、リコリスの肩が二つに分かれて倒れる。
「さて。シャンスにどう説明しようかな。」
聖剣についたリコリスの血を素振りで払い、リコリスに背を向けて歩き出す。
「これで…終わりだと思うなよ…リコリス…ラジアータを舐めるんじゃない…」
瀕死のリコリスの体がツルに覆われていく。
「往生際が悪いね。魔力を暴走させるなんて。僕を倒してもどうせ死んじゃうじゃないか。」
「うるせぇよゴミが!!お前は絶対に殺してやる!!!」
魔力を暴走させたリコリスがチャトラに襲いかかる。
「言ったじゃないか。時間がないと。」
チャトラはリコリスに背を向けたまま高濃度の魔力の塊を放った。
暴走した魔力はさらなる魔力を求め、チャトラの魔力を吸収しようとするが、自分の魔力要領をはるかにオーバーした魔力の塊をぶつけられ、リコリスの体は崩壊していく。
「こん…なでたらめな魔力…くっそがぁぁぁぁぁぁ!!!」
魔力の光に覆われ、リコリスの体は魔力の霧となって消え去った。
「さて、無理させちゃったね。ごめんよシャンス。」
回復ポーションをシャンスの体でがぶ飲みした後、シャンスの体から光となって元のチャトラへと戻る。
こうしてシャンス(チャトラ)は魔王軍いきもの係、リコリス・ラジアータを倒したのだった。
チャトラはシャンスの横で勇者が目覚めるのを毛づくろいしながら待っていた。




