焼けた大地と失われたムンゴー、そして魔人
「さて、どうしたものか。」
カルアが焼き払い、灰となったエンシェントトレント達を見つめながらシャンスは座り込んでいた。
焼き払った本人はというと、ムンゴーをトレントごと焼き払い、手に入るはずの収入が文字通り灰になので…大人げなくむせび泣いていた。
「うええぇぇ。えっ…えっ…ふん…ムンゴっ…うえっ…」
女の子とはいえ、カルアの見た目は二十代前半だろう。大の大人が紅のローブを鼻水で濡らし、泣いているのは見るに堪えない。
「ほ、ほら…またトレントが増えたらくればいいじゃないか。」
シャンスの慰めにカルアも涙か鼻水かわからなくなった水分をローブで拭い、立ち上がる。
「大きな音がしたから出てきてみれば、焼野原じゃないか…」
神殿から聞こえてきた声の主の方を向く。
『いにしえの森』の神殿に眠る宝を守る魔人が怒りの表情でシャンス達を睨んでいた。
「貴様らが私のかわいいトレントを灰にしたのか?死ぬ覚悟はできているんだろうね。」
冗談じゃない。大体ダンジョンのボスがボス部屋から出てくるのは仕様としてどうなんだとも思うが、この世界はゲームでもないし、神殿から魔人が出てきても何ら不思議ではない。
「ファイアボルト!!」
シャンスの横から魔人に向け火の上級魔法が飛んでいき、直撃した。
「カルアさん!???」
まだ魔人が喋っていたのに紅の魔術師は魔法を詠唱し、魔人を攻撃。土煙が舞い、魔人の姿が見えなくなる。
「先手必勝です!!このまま終わらせます!」
紅の魔術師カルア…いや、カルアさんの頭上には巨大な火の玉が周囲の酸素を取り込みながらさらに巨大化していく。
「ええ…カルアさんそれはやりすぎじゃ…」
シャンスが言い切る前にカルアが魔人に向け炎の極大魔法を放つ。
「メテオラ!!!」
激しい音ともに魔人へ極大魔法『メテオラ』が飛んでいく。
着弾の時まで大気を吸収して巨大化した魔法が魔人に直撃する直前に分裂し隕石のように魔人に降り注いだ。
あれで生きているのならば、今のカルアには勝ち目はない。それほどの全力の魔法だった。
「げほっ…ごほっ…土食べちゃった…ひどいなぁ。急にそんな魔法なんて。」
燃え上がる炎の中から魔人が姿を現した。
「え…そんな…あれで生きてるなんて人間じゃありません!」
「魔人だからね…っていうか君人間にあんな魔法放つのはよほどの異常者だと思うんだが。」
まったくもって同意である。魔法の威力はこの目で見ている。だが魔法の威力、先手必勝と極大魔法を放つ凶暴性。シャンスのカルアに対する評価が、「回復魔法が使える商人」から「炎の魔法を操る大魔法使い兼商人のやべえやつ」となった。
「やれやれ、少し服が焦げてしまったかな。炎の魔法は嫌いだ。私の植物やペットも燃やされてしまうからね。」
「チャトラ、あれがお前のご主人様なのか?」
「僕も姿は初めてみるよ。いつも神殿から出てこないからね。まったくの初対面だ。」
シャンスとチャトラが話していると、魔人がこちらに向かって歩いてくる。
「君たちは僕の森に無断で入り、かわいいトレントを焼いた侵入者だ。正当防衛だね。」
魔人の周りに植物のツルが無数に出現する。
「魔王軍いきもの係、リコリス・ラジアータ。どうせ死ぬんだ。覚えなくていいよ。」
リコリスの言葉とともに無数のツルがシャンス達を襲う。
「いきもの係て!もっとましなネーミングセンスなかったのかよ!」
シャンスがツッコミながら聖剣を抜いた。
シャンス最初の魔王軍との戦闘が始まる。




