紅の魔術師の実力とムンゴー
シャンスとチャトラは、コウン王国の門前、ヨハン像の前でカルアを待っていた。
「すみません。お待たせしました!」
紅のローブを身にまとった赤髪のカルアが駆け寄ってくる。
「大丈夫だよ。僕たちも今来たばっかりだから。」
シャンス、チャトラ、カルアの三人、二人と一匹は高値で売買されている果実『ムンゴー』を手に入れるため、『いにしえの森』へと足を進めるのであった。
「ところで勇者様、戦いの途中に勇者様とお呼びするのもどうかと思うので、お名前を教えていただけませんか?」
前勇者は一人で行動しており、名前も名乗ってはいなかったので国王でさえもその名前を知らない。
「僕はシャンス。こっちはチャトラだよ。」
「にゃあー」
チャトラは魔獣なのでシャンスと二人の時以外はネコのふりをしている。
「シャンス様とチャトラちゃんですね。改めまして、私はカルア。王国から北に行った村出身の商人です。これでも村では一番のまじゅちゅ…んんっ…魔術師なんですよ。」
盛大に舌を噛んだカルアが涙目で口をおさえている。
「かわ…いや、それは心強いよ。僕も状態異常には対抗手段がないしね。」
そうこうしているうちに昨日シャンスがチャトラと出会った場所、『いにしえの森』へ到着した。
「ムンゴーはこのダンジョンの奥にある神殿の近くに実っているそうです。」
「ボスは倒す必要がないのか。それは助かるな。」
エンシェントフラワーに触れないように、気を付けつつ進んでいく。
「おかしいですね…普通はこのダンジョンに入った瞬間から魔獣や魔植物に襲われるのですが…」
シャンスは昨日ダンジョンに入ったとき、危なげなくチャトラがいる所までたどり着いた。
「それはシャンスが魔獣のいるルートを無意識に回避して僕のところまでこれたからだよ。」
肩に乗っているチャトラが耳打ちする。シャンスの運の良さには感心する。
「今魔獣が出てこないのは何でだ?」
「僕がいるからだろうね。仮にも僕はこの森に守護者だよ。ここの魔獣よりは強いさ。」
ネコ姿のチャトラがガオーっと小さい牙を見せておどけて見せる。
なるほど。昨日はシャンスが魔獣のルートを避けて歩き、今日はチャトラが魔獣除けになっている。
魔獣の心配がないのであれば、あとはいたるところに生えている『エンシェントフラワー』を避けて進むだけである。
「なんか魔獣も出てこないみたいですし、簡単にムンゴーが手に入りそうですね。」
事情を知らないカルアが微笑みかけてくる。
「そ、そうだね。運がいいみたいだ。」
こうしてどんどん森の奥へと進み、二人と一匹は神殿へとたどり着いた。
神殿をいくつもの木々が囲むように生えている。
「あ!あれがムンゴーが実る木ですよ!」
カルアがムンゴーの木へ駆け寄る。
その時、木々が動き出し、回転した。
180度回転したところで木の中心に顔があることに気づく。
「…っ!?『エンシェントトレント』です!まさか魔植物にムンゴーが実るなんて。」
神殿を囲んでいた魔植物は全部で20体。ぞろぞろとシャンス達に詰め寄ってくる。
「戦うしかなさそうですね。ムンゴーも持って帰らないといけませんし。」
カルアが杖をとる。シャンスは焦る。まじかこの子…この数を相手にして逃げないの?君商人だよね?勇者がいるから大丈夫とか思ってないよね?偽物だからね?君の隣にいるやつ。
内心泣きそうになりながらシャンスが偽物の聖剣…サイリウムソードを抜く。
「フレイムレイン!!」
カルアの杖が輝き、空から火の玉が飛んでくるその数100。
ん?100?
シャンスが疑問を浮かべた瞬間、カルアの魔法が『エンシェントトレント』を襲う。
凄まじい爆音とともに魔植物たちが次々と灰に変わっていく。
「ええ…」
シャンスは軽く引きながら、隣にいる赤髪の魔術師を見る。
「あ。ムンゴーが…」
爆音の余韻に浸っていたカルアが我に返り、膝から崩れ落ちた。
シャンスは思った。カルアは脳筋魔術師であり、決して喧嘩を売ってはいけないと。
「ムンゴーが…お金が…荷馬車のローンが…」
「ローン組んだんだ…」
焼野原となった神殿のそばで崩れているカルアの横にシャンスも座り込んだ。




