35.逆だつ鱗
前回は突然お休みして申し訳ありませんでした。今週からまた、更新を再開していこうと思います。
足が痛いとボヤいた女の子のために飲み物を買ってきたら、女の子が取り囲まれていた。こんな状況に男子が放り込まれたら、普通パニックを起こすだろう。なにせ相手は複数人で、しかもどう見ても年上だ。臆病な子なら泣いて逃げるかもしれない。
だがその状況を見たシャルルが一番初めに思ったことは違っていた。
(全員不敬罪で首が飛ぶ!!)
そのビジョンを明確に想像したシャルルは一気に青ざめ、全力で走った。最低なナンパだとしても恐らく彼らはここの領民。物理的に首と胴体がさようならするのは流石に哀れすぎる。
真ん中にいる男はさっきの暴漢だ。さしずめシャルルへの仕返しというわけだろうか。これは、フィーを目立たせるようなことをしたシャルルの責任でもある。
「な、に、を、」
してるんですかぁー!
そう叫びながら、シャルルは勢いに任せて男へ飛び蹴りをかました。
「うおおおっ!?」
「なんだァこのガキ!」
「こ、こ、コイツだ! こいつが話してた騎士だよ!」
男たちとフィーの間に体を滑り込ませ、庇うように立つ。そっとフィーがシャルルの肩に触れるが、聞こえた言葉は怯えたお嬢様とは限りなく遠いものだった。
「燃やすか?」
「なぜそうも炎上させたがるんです……」
「派手な方が良いだろう」
この人結構なボマーかもしれない。そう思案しながら剣に手をかける。フィーに魔法を使わせるような状況にしてはならないな、と笑いながら。
「なんですか、皆さん揃って。確かにフィーは魅力的ですが貴方がたが触れたら犯罪ですよ」
「レイモンドが色々言うから期待して来てみれば、本当にただのガキじゃねぇか」
「剣を持ってるからって調子乗ってると痛い目見るぞ、おぼっちゃん?」
「お、お前ら! そいつは本当に強いんだからな!?」
「はいはい、チャンバラに強いおぼっちゃんって訳だな」
先ほどの暴漢はレイモンドと言うらしい。シャルルが来た地点で腰は引けているし、顔色は悪い。だが屈強そうな男三人を連れているからか逃げ出しはしないようだ。
三人組は完全にこちらを舐めている。ずいぶんと腕っぷしに自信があるようだ。いや、シャルルは子供なので認識自体は間違っていないのだが。
(あんまり領民に手を出すとなー。あとで師匠のお説教が怖いんだよなー)
騎士は基本的に民に手を出してはいけない。当たり前といえば当たり前の規則だ。民のために鍛えた力を民を傷つけることに使っていては本末転倒である。
と、言うのがガラドス団長の教えだが民が全て善良な訳ではない。特に誰かを守るためとなるとどうしても起きる矛盾は、いつも若い騎士達を迷わせている。
「……何を企んでいるのか知りませんが、今なら見逃してあげますよ。そちらの方が身のためでは?」
実際、物陰から凄い殺気が漂ってきているのだ。オリヴィエールの位置が丸わかりである。まだフリーレン家の騎士団に捕まるのならいいが、彼に捕まるとどんな罪として裁かれるのか分かったものではない。今なら見逃して、ついでにオリヴィエールからも逃がしてあげることができる。しかしそんなシャルルの親切心はあっさり無下にされた。
「いきがっちゃって可愛いなァ? 大丈夫大丈夫、俺達がそこのお嬢様に道案内をしてあげるだけだぜ」
「小さな騎士様は騎士団の先輩方に泣きついてきたらどうだ?」
「ちゃんと夜になる前には帰すさ」
男のひとりがシャルルの後ろに隠れるフィーへ手を伸ばした。下卑た表情を隠しもしない。そのことにふつふつと怒りを感じながら、シャルルは素早くそれを払った。
「話を聞かない人たちですね……」
シャルルにとってこんなヤツらは正直どうでもいい。フィーと過ごす時間を邪魔しないでくれよ、くらいの思いしかなかった。彼らのために剣を抜くのも、そしてガラドスに叱られるのも、馬鹿馬鹿しくてありやしない。だが、彼らから放たれる視線に湧き上がった苛立ちがシャルルの手を柄へと動かした。
(……フィーを、マティス様を、そんな下卑た目で見るんじゃねぇよ)
貴様らごときが。
カチ、と音がして鞘から剣が少し浮く。だが抜くことはせず、同時に全身から溢れ出した殺気を纏めてシャルルは男三人へ突き刺した。暴漢もといレイモンドはどうでもいい。他へ向けられた殺気にあてられて腰を抜かすだろう。
果たして男三人はその場で固まり、レイモンドは地面へ尻餅をついた。その隙に素早くシャルルはフィーを抱き上げる。
「……おい」
「あいつらに付き合う時間が無駄です。行きましょう。片付けは先輩たちに任せればいい」
地面を蹴って軽々と噴水の縁を飛び越える。一応後ろを確認したが、男達が追ってくる気配はなかった。哀れな彼らは硬直したままもっと怖い御人に捕まってしまうだろう。それを心配してやるほど、シャルルは優しくはなかった。
「フィー、あいつらに何もされていませんね?」
「指一本でも触れたら炭にしてやろうと思ったんだがな」
「物騒な……まあ、こんなに可愛いので手を出したくなる気持ちはわかるんですけどね」
「ほう、お前も炭になりたいらしい」
「わー、もう触れちゃっているのでご勘弁を!」




