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Snow Drop  作者: 桜音袮
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第四話


監督は、金を払われて依頼された死体と、気まぐれに持って帰ってくる子どもの死体しか焼かない。だから数はそこまで多くない。二回に分けて焼けば、その日の仕事は終わりだった。

子どもたちは死体を見ても動じなかった。もっとむごいものを見たことがあるのかもしれなかった。目を見開いている者の瞼を閉じさせ、手を組ませてやる子どもさえいた。


ゼロは複雑な気持ちになりながら、煙突からのぼる黒い煙を見上げていた。

1回目の焼却が終わると、監督が重たい扉を開き、灰を掻き出す。子どもたちはそれをスコップですくって壺に納め、共同墓地までいき、そこに壺を埋めるのだった。

少し雪をかき分けて壺をおき、そっと雪をかぶせるだけの子どももいれば、必死に地面まで掘り返す子どももいる。

その間に監督は、2回目の焼却を始める。ゼロは遺体を運び入れるのを手伝い、乾いたマッチを何本かすって奥に投げ入れ、監督と重たい扉を閉めた。

ゼロは軽く荷車に腰掛ける。あの、と呼びかけると監督が横目でゼロを見た。

「明日も雇ってくれますかね、先約なけりゃでいいんですけど」


少しの沈黙のあと、ああ、と返事があった。ありがとうございます、と嬉しそうにゼロが言うと、意外だなと返される。

「何が?」

「まだ若いのに、こんな仕事ほしがるのが」

「別に・・・・・」

前髪についていた結晶をはらう。「お金くれるならどんな仕事でも欲しいですよ」


それに、と続けた。

「子どもが埋めてるのにこんな仕事、とか言えないですし」

向こうに視線を投げると、ちらほらと雪を蹴飛ばしながら帰ってくる子どもたちが見えた。

手を繋いで歩いてくるのはリリィとジェシだろう。子どもたちがみんな揃いの黒っぽいコートを着てフードを被り、スコップを片手に雪原に散らばっているのは、やせ細って小さい体なのもあいまって、どこか寒々しかった。

「そうか」


監督は素っ気なく相槌をうち、焼却炉を振り返る。いつの間にか煙は消えていた。

ゼロと監督二人で扉を開けると、子どもたちが走り寄ってくる。監督がまた灰をかき出し、子どもたちは壷とスコップを持ってそれを囲んだ。そしてまた共同墓地へと散らばっていく。ゼロは一歩引いてそれを眺めていた。

「今日のあんたの仕事は終わりだ」

言いながら手袋を外し、コートの内ポケットを探る。ゼロは右手で報酬を受け取ると、それをポケットに突っ込み、軽く会釈をした。監督がもう興味を失ったように向こうに視線を向けたので、ゼロは大人しく背を向けて帰路についた。


次の日の仕事はもっと少なかった。ゼロはなぜ監督が雇ってくれたのか訝しんだが、今日は仕事のあと自由に外で遊ばせてやる日らしく、その監視を仰せつかったのだった。

監督自身は他の仕事があると言って自分の家に引っ込んだ。そういう訳でゼロは、少し高いところにあり雪原を見渡せる場所に監督から借りた木箱を置き、その上に座って子どもたちが駆けまわるのをぼんやり眺めることになった。


少しすると、リリィとジェシがゼロのいる場所まで歩いてきた。木箱の隣に座り込み、ふたりともゼロと同じ方向を眺めている。

「遊ばないの?」面白そうにゼロが尋ねると、ジェシが答える。

「リリィは遊ぶのが好きじゃないよ」

「君は?」

「僕はリリィといる」

「健気だねぇ」

からかうようにリリィを見たが、黙り込んだまま座っているだけだった。


「それ、なに?」

ふとリリィが白っぽい何かを握りしめているのが見えた。ジェシがゼロの視線を追う。

「それ、リリィの花」

「花?」

「うん、リリィがさっき取った」

ジェシがそっとリリィの腕を抑えたので、リリィはしぶしぶといった風に手を開き、ゼロに見せた。


ゼロは体の向きを変えてそれをじっと見た。

「へえ、スノードロップだ。咲いてるんだね」壺を埋めるために掘った時にでも見つけたのだろうか。冬の終わりに咲く花だが、こんな毎日ではそれもあてにならない。

「スノードロップ?」ジェシが甲高い声で聞き返す。

「そう。雪が白いのはこの花のせいなんだよ」

「なんで?」

リリィも不思議そうに顔を上げ、ゼロを見た。

ゼロは少し気分が良くなった。


「最初色がなかったから、雪は花たちに色を分けてくれって頼んだんだけど、みんなに断られた。その時スノードロップだけが、雪に色を分けてあげたって言われてる」

「へー・・・優しいだ」

ジェシはすっかり感心したようにリリィの手元を見た。

リリィも目線を落とす。

「それの花言葉、知ってる?」

「花言葉?」

「花を言葉のシンボルにするんだ。バラなら愛情、デイジーなら純潔。・・・まあ、花なんて最近は滅多に見ないけど」

子どもたちの不思議そうな顔を見て、ゼロは言葉を切った。


この子たちはこの白と灰色の世界しか見たことがないのだろう。空の青いのも、バラの真紅も、太陽に光の明るいことも、知らない。

リリィが大切そうに花を両手で閉じ込めたのを見て、ゼロは微笑んだ。

「大切にするといいよ。スノードロップの花言葉は、希望だ」

きっといいことがあるよ、と頭をなで、立ち上がる。

「そろそろ時間かな?監督が出てきた」

ふたりの子どもが揃って顔を上げた。ジェシがリリィの手を引いて立ち上がり、丘を降りていく。途中、リリィがちらりとゼロを見たので、ゼロは笑って手を振った。

スノードロップね、と小さく呟く。

ポケットの中に手を入れると、硬貨が指先に触れた。


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