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Snow Drop  作者: 桜音袮
3/6

第三話

「びっくりしました」


青年は軽い口調で呟いた。「あなた、人買いだったんですか」

監督は遺体から目線を上げた。青年は自然な仕草でしゃがみこみ、監督の手元をみていた。


「・・・あんた、名前は?」

「ゼロって呼ばれてますね」

「本名か?」

「さあ。忘れました」

ゼロは人好きのする笑顔を浮かべた。


「・・・そっちの足を持ってくれ」

ゼロは目を瞬かせた。「ああ・・・・・はい」

しばらく二人で黙々と荷車に遺体を運ぶ。幸か不幸か、この寒さでは腐り落ちることもない。

監督が前で引き、ゼロが押し始めたとき、「それが一番幸せな方法だった」と声が落ちた。


「あいつらの親は、金が欲しくて子供を売りたがった。子供は自分と一緒にいてくれる親が欲しかった」

「自分なら養えると?」

「ーー俺は働く子どもが欲しかった」

ゼロは白い息を吐いた。何人暮らしてるんですか。純粋な興味で尋ねる。少しおいて、23人、と返ってくる。


「外に行きたがらない?」

「子どもは地下室、鍵をかけている」


ゼロは監督の背中をまじまじと見つめた。

「あなた、いい人なんだか悪い人なんだか、わからないですね」

「金を払った。損はごめんだ」

「はあ」

「どちらにしろ、あいつらに行く場所はないが」


ゼロは黙った。監督は淡々と、定速的に荷車を引き続けていた。

「・・・あ、」

二人が焼却炉の前に戻ると、しゃがんで雪遊びをしていた子どもたちがいっせいに顔をあげた。ゼロは見るともなしに子どもたちの顔を順ぐりに眺めた。見たところ、子どもたちは痩せてはいるが血色は悪くない。多分、ちゃんと食べさせてもらっているのだろう。


善悪は本当はどうでもいいことなのかもしれない。あるのは事実だけで。


監督が焼却炉を開け、中で薪を組み始めた。それをみて何人かの子どもが手伝いにいく。

ゼロは放っておかれた荷車を焼却炉の隣につけ、手持ち無沙汰な子どもたちにジロジロ見られながら佇むことになった。


他の子どもたちが手元で雪遊びをし始める中、二人、何をするでもなくじっと立っている子どもがいた。互いを暖めあうように手を握り合い、安物のコートの大きいフードを目深に被っている。


女の子なのだろうか、片方の子どもの、無造作に伸びた白髪がフードからこぼれているのが目をひいた。色素の薄い髪色は別に珍しくはなかったが、ここまでの白髪は初めてかもしれなかった。ゼロは好奇心からしげしげとふたりを眺めた。


ぼうっと監督らの仕事を見ていたもう片方がふとゼロを見た。淡い緑色の瞳だった。

視線をそらさずにそのまま見守っていると、子どもは興味をもったのか白髪の子どもの手を引っ張りこちらに向かってきた。近くにつれ顔立ちから男の子なのだろうと察しがついた。


「おじさん、仕事の人?」緑の瞳の方が尋ねる。無邪気な声だった。

ゼロはうん、とにっこり笑う。年齢にそぐわない呼び方をされたのは、髭を剃らなかった自分のせいだろう。

「なんでこっちを見てたの?」

「君たちが、他の子たちと一緒に遊んでなかったから」

緑の方は目を瞬かせた。当たり前のことを言われたようだった。


「リリィは遊ぶのが好きじゃないよ」

「リリィ?君の名前?」

「僕はジェシ」

ゼロは白の方ー-リリィを見た。自分の名前を出されても、微動だにしない。

「・・・なるほどね」

なんとも微笑ましいナイトじゃないか。


不意にリリィが身じろぎした。ジェシのコートの裾をつまみ、ついと引く。

「監督が呼んでる」

しんとした声だった。ゼロもつられて監督の方を見ると、不審そうな目でこちらを見ていたが、ジェシがリリィの手を離して駆けていくとまた手元に目線を落とした。


ゼロは目の前の少女に視線を戻す。リリィはゼロを見つめていた。

ゼロは別に子どもだからといってしゃがみこんで目線を合わせることなどしなかったので、必然的にリリィは長身のゼロをことさら見上げなければいけなかった。

彼女の瞳の色はうすいすみれ色で、茫洋としていた。しばらくじっとゼロを見上げていたが、やがて小さく唇を開いた。


「ほんとに、仕事にきたの」

語尾をあげることすら億劫だというように平たい声音だった。

「うん」ゼロは首を傾げたが、また軽く頷いてみせた。

「君たちの監督はなかなか人がいい。これくらいの労働で、結構くれる」

リリィの視線がさっとゼロの全身を掠める。それから、怪訝そうな色を浮かべてまたゼロの顔を見上げた。そうしていると、不思議に落ち着いて見えた先ほどよりずっと子どもらしく見えた。


「煙草とブランデー」

「・・・なに?」

「煙草とブランデーの匂いがする」

ゼロは黙りこんだ。リリィのすみれ色の瞳を見返す。

「監督が、煙草はお偉方の好きなもので、飲むためのお酒は余裕のある人のものだって言ってた」

ゼロをじっと見上げて繰り返した。

「仕事に、きたの?」

ゼロは微笑んだ。うん、と頷く。

「お金は、あればあるほどいいからね」

リリィは首を傾げた。それが大人だよ、ゼロは諭すように言って、側の荷車に手をかけた。

「さあもう、仕事にかかろう」

焼却炉の火がごうごうと音を立てていた。


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