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Snow Drop  作者: 桜音袮
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第二話




「仕事だ。出ろ」

廊下の奥から、監督の低い声と、部屋の鍵が重たそうな音を立てて回されるのが聞こえる。監督が持ってきたろうそくの影が伸びている。リリィはドアのところへ行き、半円型にくり抜かれた部分にはまっている鉄格子の向こうを背伸びしてのぞいた。

ちょうど斜向かいのジェシが出されたところだった。監督から健康チェックを受けると、まるで外に出られることが嬉しいみたいに、廊下をまっすぐに駆けていく。

監督と目が合ったので、踵を地面につけておとなしく待つ。隣の部屋のシャロンが出されると、次はリリィの番だった。ボロボロの着まわし用コートを受け取り、廊下の奥にある階段を一歩ずつ上がれば、ドアは開け放たれていて、もう外だった。


曇りとはいえ、あの小さな部屋に比べたらずっと明るく、眩しさに少しだけふらつく。

先に行った子達の足跡を追うように、ブーツを雪に埋もれさせながら焼却炉に向かう。

途中でジェシが待っていた。リリィを見て、すぐ駆け寄ってくる。

「リリィ、寒くないの?」

「寒い」

「フードは?」

「フード?」

オウムみたいに聞き返してやっと、リリィはコートにフードが付いていたことを思い出した。

「・・・・・・うん。」

のろのろとリリィがフードを被るのを待ってから、ジェシはリリィの手をすくいあげ、引っ張った。

「今日はね、大きい男の人だったよ」

そう、とリリィは素っ気なく相槌を打った。

焼却炉には毎日違う人が来る。週に何回とか、定期的にきている人もいれば、一度見てから二度と姿を見ない人もいる。

リリィたちよりずっと大きく、同じくらいボロボロで、だいたい痩せっぽち。

お金がないから、焼却炉に来て死人を焼く。リリィたちは、その灰をかき集めて監督が焼いた小さな壺にいれ、そばの共同墓地に手分けして埋める。

死体が少ないときは監督も人を雇わず、焼くのも男の子たちに手伝わせて、リリィら女の子たちが埋める。それが終わったら、みんなで監督が壺を焼くのを手伝う。

リリィたちの日常はそんなふうだった。国の外れにある小さな監督の土地で、地下に一人一部屋を与えられ、朝起きて仕事をし、夕方部屋に戻り寝る。

リリィは監督と、一緒に暮らしている子供たちと、監督に仕事をもらいにくる大人たち以外の世界を知らない。気が付いた時にはもう雪は降り止まなくなっていたし、ゆるゆると続く戦争は死人を埋めるリリィの生活の根幹にあった。


ジェシに手をひかれて焼却炉につく。確かに、寄り添って監督を待つ子供たちの向こうに、初めて見る男の人がいた。背が高く、若いけれど、コートはボロボロ。

少しだけ、湿った木々の匂いに紛れて煙草とブランデーの匂いがした。

監督が、なるべく濡らさないようにと布で巻いた薪を担いでリリィの後ろに立つ。リリィとジェシは雪の上に下ろされたそれを解くのを手伝った。

「おい、若造」監督が男の人に呼びかける。

木にもたれて俯いていた青年は、顔を上げて監督を見ると、軽く返事をして近づいてきた。

「始めます?」

「ああ。向こうに置いてある。運ぶぞ」

「了解です」

監督はリリィとジェシの頭に手を置いてから、腰を上げた。死体を運んでくるのだろう。

リリィは監督が薪と一緒に持ってきたスコップと壺を無為に並び替えた。




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