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第18話 Himechanと従者

 そして、授業後。

 クラスのみんなは、衰弱でできることがないからと早々にログアウトしていく。

 みんな元気がない。

 俺達は十層ボスに向かうために転送ルームの前に集合。

 みんなそれぞれ小用があったみたいで、俺が先に転送ルーム前で待機していた。

 その時、この間『スカイフォール』を賭けて一悶着あったB組の片岡が姿を見せた。

 向こうが俺に気が付いて話しかけてくる。


「よぉ。お前らのとこも衰弱ボムでえらい事になってるみたいだな」


 あれ? 今お前らのとこもって言ったよな。

 じゃあ伝説の弱体アイテムとやらの件は、向こうにとっても想定外だったって事か?

 前田さんはB組を疑ってたけど、違うのかも? じゃあ誰の仕業なんだよ。


「何だよ無視することねえじゃねえかよ!」

「あ、いや悪い。そういうわけじゃねえよ」

「まあ確かにあの件は俺が悪かったよ! あまりのレア武器だったから、ちょっと熱くなっちまって。今考えたら完全に言いがかりだわな、悪かったこの通り」


 手を合わせつつ、頭も下げられた。何だそんなに嫌な奴じゃないんだな。

 ゲーム好きに悪い奴はいないって思いたい俺としては、ちょっと嬉しかった。


「いや別に怒ってねえし、もういいよ。それより衰弱ボムの件はそっちでも問題になってるのか?」

「おお。8人もやられて動けねえからな、十層ボスを前にして大幅戦力ダウンだわ」

「こっちなんかほぼ全滅だわ。予定してたボス戦も中止になったしな。みんなテンションだだ下がりでさ」

「ああーそうなっちまうわなあ。うちは一応残りのメンツでやる予定してるけど――」


 と、片岡の話をぶった切って少し離れたところから声がかかった。


「ちょっと片岡君。早くなさい、私トロい奴は嫌いですわ」


 赤羽希美(1-B)

 レベル28 ソードダンサー ステータスアイコンは特になし。


 うわ何かすげーな、この娘。

 物凄い美人なのは言うまでもなく。すらっと背が高くてモデル体型。それはまあいい。

 何よりジョブがあきらと同じソードダンサーだけど、とても堂々としている。

 この人の集まる転送ルームで、平然とジョブ特有の肌色衣装を着こなせているのだ。

 周りからは当然視線が集まりまくっているけど、微塵も気にする素振りがない。

 なんかこう、大人物な感じがするぞ。口調も女王様っぽい。


「あ。はいはーい、希美様~すぐ行きまーす。少々お待ちを~」


 それはもう嬉しそうに、片岡は愛想笑いしていた。

 それを聞いた希美様とやらはつまらなさそうに視線を外し、別のやつと話し出す。


「……」


 見ていて何となく感じ取ったこと。

 そもそもなんで片岡は『スカイフォール』をあんなに欲しがったか?

 片岡の盗賊(ローグ)って『スカイフォール』装備できないんだよな。

 今も『希美様~たまらねぇ~もっと冷たい目で見て~』とか意味不明の供述をいたしております。


「……なあ、ひょっとして『スカイフォール』あの子に貢ぐ気だったのか?」

「あ、わかる?」


 あっさり頷きやがった! いるいるこういう奴!

 ネトゲ用語でいうところのHimechanと従者ってやつだな。

 Himechanすなわち姫ちゃんてわけ。


 女性キャラプレイヤーをお姫様かの如くちやほやしちゃう奴っているんだよな。

 何でも手伝ってあげて、レアなアイテムも貢いだりするし、終始側にくっついている。

 ゆえに従者。そうされるHimechanの方もなんでも手伝ってもらってイージーモードでゲームが進むから、それが当たり前と勘違いしてプレイヤースキルとかは育たない。

 正直俺はあんまり好きじゃない人種だ。


 純粋にゲームを楽しんでる感じがしないからな。正直どこか他所でやって欲しい。

 さっきの赤羽さんがどうなのかは知らんけどな。

 しかし片岡……お前そういう奴だったのか。見直したけど見損なったぜ。


「さすがに同じ趣味同士、理解が早い。お仲間につっかかちまってホント悪かったな」

「はぁ!? 何だよ同じ趣味って?」


 しかし片岡は不思議そうな顔をした。


「だってお前もあのソードダンサーの子に貢いでんじゃん? 俺と一緒だろ?」

「!?」


 しまった……! 気にしてなかったけど、今の俺とあきらだとそう見えるのか!?


「あの後仲田先生に言われてさ。俺は負けても、一人のHimechanが幸せになったんだからそれでいいじゃないかって。確かにその通りだったぜ……! 俺は心が狭かった!」

「……」


 いや何言ってんだよあの人!

 俺は不遇ジョブの魔改造をストイックに突き詰めたいだけなのに……!

 なんかショックだわ、従者扱いされるとは……!


「青柳さんだっけ? あの子も可愛いよな。俺はツンとしてる女王様タイプがいいから、希美様一択だけど」

「いやいやいや! 俺はそういうつもりじゃねー!」

「あー初めはみんなそう言うんだよ。でも慣れてくると、Himechanに振り回されたり貢ぐのが快感になって来るんだぜ? そのうちもう自分からHimechanを探すように……」

「聞いてねー! とりあえずリアルな下心を持ち込んで、ゲームの世界を壊すようなのと一緒にしてほしくねーよ!」

「それは直結厨であって真の従者じゃねえよ! 俺なんかちゃんとHimechanしてくれるなら中の人が男でも全然貢げるぞ! 真の従者は見返りなんか求めねえんだよ! ただただHimechanに振り回されたいんだよ! 分かるか!?」


 うん、馬鹿だなこいつ。そして無駄に熱い。


「いや……まあお前のこだわりは分かったけど、一緒にすんなよな!」

「わたしは従者蓮くんでも別にいいけどねー」

「あ、あきら」


 気が付くと後ろにあきらが立っていた。


「よお青柳さん。この間はごめんな。反省してる」

「あ、うん。大丈夫、もう気にしてないから」


 そこで、もう一回赤羽さんが片岡に呼びかけて来た。


「片岡ーっ! 早くしろと言ってますわよ!? いつまで人を待たせますの!?」


 今度はお怒りモードみたいだ。

 それを見たからなのか、あきらが「うげっ」って声を上げて俺の後ろに隠れていた。

 どうしたんだ?


「あっ! 行きまーす! すんません! そんじゃなー。そっちも頑張れよ」


 と片岡は俺達に挨拶して去っていった。


「あきら? 何隠れてんだよ?」

「あ、うーん……あのね。今のリアルの知り合いだったかも……」

「赤羽さん?」

「うえええぇ、やっぱそうなんだあ」

「挨拶しなくていいのかよ?」

「いいよお、別に友達じゃないし。あんまり仲良くしたい相手じゃないし」


 学校の知り合いか何かか?

 しかし赤羽さんって明らかにお嬢様っぽい何かのような気がするな。

 その子と同じ学校? って、ひょっとしてあきらも相当お嬢様だったりするのか?

 確か横浜に住んでるんだっけか。すっごい大豪邸だったり? ちなみに俺は東京。


 何年も一緒にゲームやるフレだったけど、学校の話はそこまでしてこなかったな。

 ただちょくちょく退屈だとは言ってたような?

 まああまり嬉しそうな顔はしていないし、突っ込んで聞くのはやめておこう。

 俺は話を切り替え、さっき片岡から得た情報を披露する。


「あ、ところでさ。衰弱ボム使ったのB組じゃないっぽいぜ。さっき片岡が言ってたけどB組も被害出て困ってるってさ」

「そうなんだ? じゃあ誰がやったのかなあ……んーでも今は犯人捜しより少人数攻略のこと考えた方がいいよねえ?」

「だな。B組は戦力減ったけどボスやるっていってたし、他のクラスだっているし」

「高代~、青柳ちゃんお待たせー」

「四人揃ったわね。それじゃあ早速行きましょうか」


 と、そこへ矢野さんと前田さんがやって来た。全員揃ったのでさっそく出発だ。

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