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密談(裏)

「どうだ、ケイ」

「……」


『――察しは――だけど…――』


「上々だな」


 イネスの言葉に、ケイが答えた。

 術式を唱えて耳を澄ませば、遠くにいる神子たちの会話が聞こえてきた。

 いわゆる、盗聴というものだった。


「私にも聞こえるといいんだが」

「お前は剣が強いが、魔術師の素養はないからな」


 無理だ、と意地悪く笑って、神子たちの会話に耳を傾ける。


「ふぅん…」


――なかなか頭が回るようじゃないか。


『――身の安全…保障…――』


――だが、詰めが甘い。


 生きてきた世界が、きっとそんな、優しい世界だったのだろう。そう考えて、自分の生きてきた世界に嫌悪する。


「何を話している?」

「――そうだな」


 逡巡する。

 このまますべてを話しても問題はない。むしろ国益を考えるならば、神子たちの考えを暴露するのが正解だ。

 

――だが。


 それでは面白くない。国にも、世界にも、ケイは恩を感じてはいなかった。たとえばもし、今この瞬間死ぬと言われても動じない程度に、命も軽いものだ。ならばせめて――


――楽しい方がいいじゃないか。


「男の神子に現状を話しているようだ。文献通り、異世界から飛ばされてきたのは間違いない。それと、俺たちの話を少し聞いていたようだ。『鍵』と『箱』だと言っている。どうやら三人目の今後を案じているようだな」


 嘘は言っていない。ただ、少し、隠し事をしただけで。

 彼らの口調は大人と同じだ。思考も、そうだ。


「……三人目の、か」

「あぁ。悠長に、そんなこと言ってるな」


 苦笑が漏れる。

 身の危険があるのは、何もおまけだけではない。

 三人が三人とも、目の前にはいばらの道があるだけだ。


「で、誰が『鍵』で誰が『箱』かは分かったのか?」

 

 イネスの言葉に首を振る。


「いや、本人たちにもわからないらしい」

「…そうか」


 そう言って黙り込む。

 どう判別するかを考えているのだろう。


「お前は、誰だと思う?」

「さぁな。おそらく男女で『箱』と『鍵』なんだろうが…」


 神子たちも同じ仮説を立てているようだ。


「では、三人目は、何の力を持っていると思う?」


 その言葉に、愚問だ、とケイは笑う。


「異世界から来た神子の能力は、千差万別。『箱』と『鍵』以外、予測がつくわけがないだろう」


 異世界からの召喚者は、必ず一つ特異な能力を持ってこちらの世界にやってくる。その特異な能力は、この世界の者がいくら神に乞うても授けられることのないものだろう。ゆえに召喚者は、羨望と恐怖から「神子」と呼ばれるのだ。

 これはまだ、神子たちの知らないこの世の理。


「さぁ、神子たちの話も一段落済んだようだ。一度腰を落ち着けて考えようじゃないか」

「…そうだな」


 神子様を呼んで来よう。

 そう言って、イネスは三人の方へと向かっていった。

 その背中に、からかいの言葉をかける。


「おいおい、レディのトイレを覗く気か?」



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