王都帰還へ
文献通り、その後も度々魔物が現れた。
しかし文献とは違い、出現はハインケル領内が多かった。
時折ハインケル領に隣接する領で魔物が出現したが、王都近郊での魔物の出現は見られなかった。
「予想通りってやつかな」
「そうね」
向かってくる魔物に、箱と鍵を展開する準備をする。
「境界線まで残り5!」
境界線を越えれば、こちらの力の餌食だ。
魔物退治は、驚くほど順調だった。
始めに討伐した魔物よりうんと弱い魔物が、このところの相手である。
今回も図体はデカいが動きは鈍い。
甲羅のないウミガメのような魔物が、策もなく前進を続けていた。
「4!」
「箱よ」
「鍵よ」
神子の力は、強大だった。
「3!」
「2!」
「超えます!」
箱を展開し、魔物を閉じ込め、鍵をかける。
それだけですべて事足りた。
魔物の断末魔が響く。
今回の討伐は終了だ。
それだけのことに、毎度大きな軍を率いているのが、不思議なほどだ。
とはいえ物見の兵も、斥候の兵も、ありがたい存在だ。
事前の情報があるということがこんなにも後の行動をスムーズにするとは思っていなかった。
ちらり、と那毬は兵隊の後ろを見る。
留がいた。
彼女も補給兵として毎回ついてきていた。
できれば近くに、とは思うが、互いの立場上そう簡単にはいかないことはわかっていた。
ケイから忠告もあった。
あまり、近づかない方がいいのだろう。
定時連絡も途絶えている。
討伐、という不規則な出来事のせいだった。
「お疲れ様です、那毬様、誠様」
「慣れてきたな」
軽く頷いて獣車に戻る。
一瞬、誠と二人きりになった。
図らずも同じタイミングでため息を吐く。
「疲れた」
「あぁ」
外では撤収作業が行われている。
二人はそれを眺める立場だ。
「あ、留さん」
誠が獣車の窓から留の姿を見つけたようだ。
「なんか、遠いな」
「……そうね」
留との距離が遠い。
話したくてもろくに話せない。
「お待たせしました」
イネスが乗り込んできたため、二人は会話を終えた。
しばらく撤収作業の様子を見ていると、イネスが思い出したように二人に話しかける。
「そう言えば」
懐から紙を出す。
「王都へ行く準備が整いました」
今、このタイミングで言うことだろうか、と那毬は一瞬考える。
戦闘の後。
撤収作業のざわついた時間。
けれど、神子としては暇な、待ち時間。
適切かもしれない。
「そう言えば王都は奪還されて……」
「はい。奪還後、神子様を迎える準備をしておりましたが、とうとう準備ができたと、そう手紙が来ました」
いままで王都が占領されてどう国として成り立っていたのかがまず不思議だが、どうやら2か月ほど前に問題は解決したらしい。
少し前に町も浮足立っていた。
「そう言えば、王都が占拠されていたのに、どうして大きな混乱もなく国を治め続けていられたのですか?」
横合いから誠がイネスに尋ねる。
イネスはその言葉に、喜色を浮かべる。
教え子の成長が嬉しい、というように。
「この国を動かすのは王の血統と、印です。王都は場所にすぎません。王と王の一族が無事で、印さえ無事なら、どこでも執政は可能です」
それを可能足らしめているのが、魔術と、この世界の文化らしい。
「まぁ膨大な資料や設備が一番整っていたのも事実ですから、王も大変苦労をされていたようです。ただ、クロイツ領に身を寄せていたので、そこまで不自由もなかったとは思います」
「クロイツ領というと、妃様の生家」
「そうです。まぁ、あとは……占領した謎の集団が、王の命を狙わなかった、ということも大きい」
「え」
「ただ、占拠のみを行っていたようです。王都に住む者は今まで通りの生活ができていたと言いますし、正直、目的もわからず不気味ですね」
イネスが眉間にしわを寄せる。
「首謀者もわかりませんし」
不気味な占領者だった。
ただ、占領しただけ。
「なにか仕掛けられていないか王都中探しましたが、それもなく……」
首をかしげる。
不思議な事件が起こったものだ。
ただ、那毬と誠がわかることがあるとすれば、自分たちがきっと、関わっているだろうという事だけ。
召喚された日に占領なんて、そうでなければ考えづらい。
何も知らないが関わっているような、生ぬるい不快な感覚。
嫌な空気が、まとわりついている気がした。




