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束の間の

 二人の神子による魔物討伐。

 その噂は瞬く間に大陸中に広がった。

 箱と鍵の神子が、魔物を討伐した。

 箱と鍵の神子が、巨大な魔物を討伐した。

 箱と鍵の神子が、ハインケル領に甚大な被害をもたらした魔物を討伐した。

 麗しい箱の神子と、猛々しい鍵の神子が、軍も手出しができなかった凶悪な魔物を……。

 脚色され、誇張されたそれらの噂は、やがて神子自身の耳にも入ってくる。


「こうして伝説は作られていくのか」

「あぁ……なるほど」


 誠の言葉に、那毬が相槌を打つ。


「しかしあれだな。初めからこんな持ち上げ方でいいのか?」

「どういうこと?」

「初めから、敵が強大だと印象付けるのは拙くないか。それが『神子』の力の誇示につながるとしても、軍が役に立たないなんて言ったら、不安が増すだけな気もするが」


 魔物の討伐は今回が初めてだ。

 これからどんどん魔物は増える。

 強くもなる。

 今の段階で軍が役に立たないなど、印象付けるとなると、国は威信を失う可能性があるのではないか。

 民の不安が増すだけではないか。


「そこのあたりは、お前たちがいるからな」


 ケイが口を挟む。

 久しぶりに、那毬、誠、ケイで集まっていた。

 魔術の鍛錬、という名目だ。


「お前たちを召喚した。それこそが国の威信」


 地面に陣を描いていく。


「一応お前たちは国のもの。国の持つ兵器の一つと捉えられているんだよ。もともと、魔物との戦いは、二人の神子と魔物の間で完結してきたしな」


 他は添え物だ。

 そう言いながら、ケイは陣を描き加えていく。

 落書きとは思えない、精緻な陣だ。


「その陣は?」


 手元を覗き込んだ那毬が尋ねた。


「盗聴」


 さらりと言われた言葉は、およそ陽気な声には似合わなかった。


「……誰を?」

「さぁ」


 相変わらずの軽薄な笑みを浮かべて、ケイは首を竦めた。

 この男は、謎も多い。

 那毬も誠も、それ以上は深く詮索しなかった。


「さて、文献通りなら、もうそろそろ次の魔物が現れるころだな」

「そう言えば今回の魔物は、文献によるともう少し後の魔物じゃないの?」

「そうだな。そう見えた。次の魔物がどんなものかによっては、過去と違う何かが起きていると判断してもいいかもしれない」


 思えば、予測通りに事が運んだことがなかった、とケイは思い返す。

 この神子達の召喚からして、場所も人数も違う。

 さらに、大人の記憶を持つ「魔女」候補だ。

 選定式はハインケル伯爵に勝手に決められ、そうかと思えば王都には帰還できなくなって久しい。

 そして今回現れた魔物は、文献の情報とは違っていた。


「掌で踊っているのを眺めているつもりが、踊らされているとは……。中々に不愉快なものだ」

「それは、私達への慰めかしら」


 皮肉を込めて那毬が言った。


「いいや、かわいそうな俺への慰めだ」


 ケイは笑って言ってやった。


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