討伐2
「私、ですか」
那毬はきょとんとした顔を浮かべた。
「あぁ。俺の弟子だろ。何を驚く」
弟子ではある。
そう、確かに。長い間一対一で、指導をしてもらっている。
「誠サマの方は魔力が足りないからな」
「う……」
誠には、魔術の才覚はあまりない。
その代わり、剣の才があった。
けれど、今この状況では役に立たない。
「……留は?」
「確かに魔力はデカいが……。俺の手を離れて久しい。正直今の実力がわからない。不安要素だ」
それに。
ケイは隣の男を見る。
イネスは、魔物の動きを注視していて、ケイの視線には気づかない。
この男は、今回の討伐で留を前に出したくはないだろう。
留とて神子の一人。
魔物を倒すことができるかもしれない。
けれどそうなれば、箱と鍵の神子の存在がかすんでしまう。
箱と鍵の神子を、那毬と誠を。イネスは絶対的な存在と印象付けたいはずだ。
救世主だと。
唯一無二なのだと。
絶対なのだと。
そうすることで、今後の討伐の動きがやりやすくなる。
妄信する者は、扱いやすい。
それに今、神子達の事を一手に引き受けるのはイネスだ。
神子の名声は、間接的にイネスの権力を増強させる。
だから。
彼は今この場で、留の名は出さない。
「準備する。足止めは魔術兵。術式3の5。狙いは右足、外側。詠唱は30秒後」
短く命令を下す。
身をひるがえし、場所を探す。
「那毬サマ」
「はい」
後ろの那毬に声をかける。
「留に、頼るな」
背後の気配は、その言葉に返事をしない。
沈黙を返される。
「確かに魔力は強い。頭だって悪くない。でも留は、救世主ではない」
いずれ、消されるだろう。
イネスも、他の組織も、彼女を殺したがっている。
邪魔なのだ。
神子は箱と鍵の二人で良い。
楔、などという役に立たない力なら、いなくても同じだ。
だから、軽率に殺そうとする。
子どもの身体で、周りは敵。
留が最後まで生き残れるはずもない。
「私達、3人一緒って決めてるんで」
「……そうか」
ケイなりの優しい忠告は、固い声音で拒否された。
それ以上、言葉を重ねることはない。
今は、魔物をどうにかするのが最優先事項だ。
「重複魔術で威力をあげる。詠唱は智の書終章、術式6の6」
那毬は持っていた魔術書を捲る。
「魔術兵で足を止める」
「石化の魔術」
「総がかりで右足だけを狙う。一瞬は時間を稼げるだろう」
石化した足を切り離すか、留まるかはわからない。
が、再生する場所は右足に限定されるはずだ。
「その間に魔術をぶち込むぞ」
「死ぬ?」
「まぁ、無理だろうが、動きは鈍るだろう」
大して期待もしない様子で、ケイが杖を掲げる。
「どうせとどめは箱と鍵だ」
「……」
「すぐに出せるな?」
「問題ない」
そちらの訓練も散々した。
効果範囲も、威力も、把握している。
ケイもその力を知っている。散々訓練に付き合ってくれたのは、ケイだ。
だから、少し離れたこの場所で、魔術を使えなどといえるのだ。
ケイの信頼が見える。
だから、安心して力を振るえるというものだ。
「誠、準備は!?」
「こっちもいいぞ」
少し離れた場所にに立つ誠は、魔物から目をそらさずにそう答えた。
すでに力の片鱗である鎖を用意している。
「じゃあ、やるか」
ケイの緊張感のない声に、那毬はどこか安堵して、杖を掲げた。
緊迫感とは……




