討伐へ
七日後。
「意外と早い再会だこと」
「訓練兵!さっさと運べ」
討伐出立の三日前。
補給兵として隊に参加することとなった留は、久しぶりに正門からハインケル邸へと入った。
「留!」
すぐに那毬の声で呼びかけられる。
視線を移すと、那毬と誠が迎えに出てきていた。
「神子様がお呼びだ、行っていいぞ」
上官が留から荷物を受け取って、頷いた。
「ありがとうございます」
そう言って、留は二人の元へと駆けた。
「元気にしてた?」
「まぁ、なんとか」
作業の邪魔にならないように数歩奥へと入り、三人で再会を喜び合う。
定時連絡で会っているとはいえ、その時間はごくわずかなものだ。
「これからの予定は?」
「兵としての仕事が多いからね。まぁ、夕刻には一旦作業は終わり。ハインケル伯爵に挨拶して、今日の夕食は一緒にとれるみたい」
「三人きりになるのは?」
「人目が多すぎる。無理ね」
留は兵達と寝食を共にする。今日の夕食だけが特別だった。
「そうか」
「神子としての参加じゃないのか?」
「神子だから参加確定だったけど……。今回は初期に出る魔物だし、本来の形である、神子二人での討伐の実験的側面があるから。私は使わないでおく方向みたい。兵としての経験を積む方が大事ってね」
「そうか」
誠が残念そうな声を出す。
「何かあれば駆けつけられる距離にはいると思う」
「それは頼もしい」
その言葉に、留は肩を竦める。
「期待しないでよ。一兵卒ですらないんだから」
「腕立ては?」
「未だゼロ!」
先日もそのせいで表向き夕食を抜かれた。
「まぁ、魔術の方はそれなりにできるから……」
言った後に恥ずかしくなって、付け足すようにそう呟く。
「それは知ってる」
「俺も」
そう、三人で過ごしてきたのだから。
「それもそうね」
仕事に戻るわ。
そう言って、留は兵達の中へと戻っていく。
その背中は、確かに前より大きく見える。
鍛えられたせいか。
「随分、時が経ったものね」
「……そうだな」
互いに、成長している。
長い、時が経っていた。
ケイも、イネスも、ハインケル伯爵も、相応に年を重ねている。
確実に時が過ぎている。
その事実は二人に焦燥を覚えさせる。
「魔王を倒して、元の世界に戻れるなら、今からだって、俺は魔王を倒しに行きたい」
誠は言う。
自分たちには時間がない。
この世界に居続ければ、きっと。
他の神子のように、20前後でこの世界から消えることになる。
神子の死を扱った文献はない。
だから、彼らがいつ、どのようにして死んだのかは知らない。
けれど確かなことは、この世界において神子は、召喚後10年から15年の間の記録しかないということだ。
それが、何を意味するか。
神子は皆、何等かの形で消えるのだ。
神子ではなく、ただの人となるのかもしれない。
もしかしたら、元の世界に戻るのかもしれない。
いつか解剖したときに見た、この世界の人間の器官を思い出す。
一番、可能性があるのは。
死だ。
この世界において、神子は短命。
そう考えれば、納得がいった。
それが、病死とは限らない。
器官など関係なく、例えば、権力を持つことを恐れて処刑されてしまうことも考えられた。
だから、早く、早くと焦るのだ。
元の世界に戻りたい。
二人を、この地で、死なせたくはない。
「そんな確約があれば……ハッピーエンドなのにね」
器官の事は、留も那毬も知っていた。
だから、誠の焦りを、那毬も知っているし感じている。
「まぁ、魔物が動きだしたってことは、物事が動き出したってことよ」
明るい声で那毬が言った。
「今回の討伐で、なにか糸口が見つかるかもしれないよ」
「そうだな」
今は、僅かな希望でも。
「可能性はゼロじゃない」
「魔法陣も見つけたしさ」
「あぁ」
今は、嘘でも前を向こう。




