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訓練 side留

 神子達と討伐に参加する訓練兵には、特別訓練が課されるようになった。


「腕立てはじめ!」


 筋力トレーニングから始まり、物資補給の実践的訓練もある。

 留はいつも通り、腕を伏せた状態から身体を持ち上げられないでいた。


「留!一回もできなければ今晩は飯抜きだ!」

「んな……こと、言われても……っ」


 できないものは、できなかった。


「いやほんと、なんでだよ」


 隣でシャズが、十数回目の腕立てをしながら呆れた声をかけてくる。

 演習以来、シャズとは少し話をするようになった。

 大体は憎まれ口だが、子どもの言葉だと思えば腹も立たない。

 腕立ての件に関していえば、全くその通り過ぎて言葉もなかった。


「シャズさーん……夕食ちょっと分けてもらえませんかね」


 早々に腕立ての努力を放棄した留は、シャズに取引を持ち掛ける。

 とはいえ、取引の材料はない。

 善意に頼った、ただのお願いだった。


「嫌だね」


 訓練後はお腹がすく。

 いくら食べても足りないほどには。

 それを、仲良くもない、むしろいけ好かない他人に分けることなど、するはずもなかった。


「だよねぇ」


 脱力して地面と友達になった留は、教官が怒鳴りに来るまでの数秒、束の間の休息を得るのだった。




 教官の宣言通り、留は夕食にありつけずにいた。さっきから何度か腹が鳴る。


「腹が減っては戦が出来ぬという言葉を知らんのか!」


 一人気を紛らわせようと、文句を連ねてみるも、減った腹が膨れるわけでもなかった。


「……知らんよな」


 文化どころか世界が違う。

 この場に那毬と誠がいたなら、きっと的確な突っ込みを入れてくれただろう。

 ついでにご飯も恵んでくれたはずだ。


「お腹空いたー」


 そう、呟いたとき。

 コトン、と物音がした。


「……」


 警戒しつつ、居室である納屋の扉を開ける。


「……ふっ」


 思わず笑いがこぼれた。

 床に置かれた皿の上に、パンと飲み物が置かれていた。


「『誰か』は知らないけど……」


 ありがと。

 すでに去った「誰か」には聞こえないだろうが、そう呟く。


「いやー、優しい人もいるもんね」

「独り言か」

「……」


 皿を持ち、部屋へ戻ろうとする背中に声がかけられた。

 視線を声を声の主に向けると、ザインが立っていた。

 思わず天を仰ぐ。


「手に持っているものは」


 ザインの視線は、留の手元で止まっている。


「ごんぎつねって知ってます?」

「知らん」

「ですよね」


 昔教科書に載っていた絵本の話など、この世界のものが知るはずもない。


「って、先生」


 ザインが手に持っているものをみて、留は少し、困った顔をする。

 その手には、団子が乗った皿があった。


「……ただでさえ体力が劣るお前が、食事を抜いて明日の訓練に耐えられるとは思えなかっただけだ」


 つまり、ザインも。

 留に食事を持ってきてくれたらしい。


「ごんが二匹いる」

「ごんとはなんだ。動物か」

「まぁ、動物ですね」

「とりあえず、その皿の物は見なかったことにしよう」


 ザインも同じことをしようとしていたのだから。


「ありがとうございます、先生」

「明日からの訓練も今まで以上と思え。神子様達の足を引っ張ることのないようにな」

「はい」


 留とてそのつもりだ。

 助けるために、二人の側にいようと決意したのだから。


「もう間もなく討伐だ。気を引き締めて万全で取り組め」

「はい!」


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