表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/92

教官室

「急に開けるなよ、馬鹿」


 開口一番放たれた言葉は、文句だった。


「……ごめん?」


 とりあえずの謝罪に、シャズは不服そうな顔をする。


「ザイン先生が教官室まで来いって」


 不機嫌な声でそれだけ告げると、シャズは立ち去ろうと踵を返す。

 ザインからの頼まれごとのために、嫌いな相手の部屋まで来て、要件を伝えてくれるとは。

 そのまま無視して知らないふりをしていても、留のせいと言ってしまえば誰もシャズを責めないだろうに。

 それが幼さ故か、本人の性格によるところかは知らないが、とりあえず礼だけは言っておこう。

 そう考えて、留はその背に声をかける。


「ありがとう」

「別に……先生から頼まれただけだし」 


 振り返らずに、シャズが答える。


「どうせ叱られに行くんだろ」


 その言葉は、何気ない憎まれ口。


「どうしてそう思うの?」


 だから、留もなんとなしに訊いた。


「だってお前、こっそり出かけたんだろ、今日」

「え」

「前もいない時あったよな」


 その言葉に、留は自分の表情が強張るのを感じる。


「この間って?」

「だいぶ前……だったかな」

「気のせいじゃない?」

「嘘つけ」


 そう言い捨てて、シャズは戻っていった。

 留も教官室へと向かう。

 おそらくシャズには、特殊任務時の不在がばれている。

 どのように知ったかは定かではないが、


「侮っていた」


 留も周囲が子どもと、侮っていたのは否めない。


「気を付けないと」


 シャズは留の不在に気付いた。

 「怒られる」と言ったことから、ザインが事情を知っているとは思っていない。獣車での移動をみられたわけではないようだ。

 であるならば。

 定期的に行くようになったハインケル邸に行くにも、今後細心の注意を払う必要があるだろう。

 異常に気付いて部屋を開けられては、困る。

 それこそ叱られる、では済まない大問題だ。


「留です」


 ドアの前で来訪を告げる。

 この世界には、ノックの習慣はない。

 教官室には魔法陣が床に敷かれており、中の人間に来訪を知らせる魔術が使われている。

 ザインも魔術の素養があるため、時折日常生活に魔術が使われることがある。


「入れ」


 ザインの声に、ドアを開ける。


「お呼びですか」

「あぁ」


 中へ入ると、ザインが座っていた。机には大量の書類が積まれており、正直乱雑な部屋だ。

 ザインは机の書類をわきによけると、留に向かい合う。


「この書類を」


 そう言って、ザインは薄い束になった書類を差し出した。

 書類は、特殊任務を思わせる。

 思わず留は顔をしかめた。


「魔物の存在が確認された」

「魔物が……」

「神子様……箱と鍵の神子様達の討伐に、同行せよ、という内容だ」


 中身を検める前にザインが言った。


「ですが、私は訓練兵です。討伐には同行できないはずでは?」

「一部の訓練兵も、今回の討伐には参加する。もちろん後方での物資の補給などの、補助ではあるがな」


 大規模な遠征になるのだろうか。


「今後魔物との戦いが想定される。訓練兵のうちから、魔物の存在に慣れるのが目的だ」

「なるほど」


 今回は本物の魔物だろう。

 だから、訓練もさせられる。


「一部の訓練兵の中に、お前も入っている」


 改めて書類に目を通す。

 概ね言われたことが書かれていた。

 詳しい魔物の情報もある。


「ですが、呼び出された理由がわかりません」


 一部の訓練兵と同じように知らせてもらえば、それで事足りる内容に思えた。

 しばらく黙った後、ザインが尋ねた。


「……今日の任務は、どうだった」


 本題は、そちらだったのだろう。


「滞りなく」


 留はそれだけ答える。


「そうか」


 それだけ言って、ザインは視線をそらした。

 殺した相手がなぜ殺されなければならなかったのか、を留は知らない。

 敢えて、知ろうとはしなかった。

 知ってしまえば殺意が鈍る。

 赤の他人だから殺せるのだ。

 赤の他人に思え無くなれば、留は人を殺せない。

 だから、話すことなどなかった。


「また、任務が下るだろう」


 手に持ったペンを弄ぶ。


「死を願われる方が多いのですね」

「そうだな」


 この世界も、一枚岩ではない。

 それに、留も死を願われている身だ。


「そういえば、私が外出したことを、シャズに悟られました」


 その言葉に、ザインは視線を留に戻す。


「任務については気づいていません」

「そうか。……こちらも気を付けよう」

「はい」


 行っていい、と退室の許可がおり、留は一礼して部屋を出た。

 少し、気が楽になった気がする。

 任務を終え、誰とも喋らずに夜を過ごしていたならば、もっと欝々とした気分のままだっただろう。

 もしそれを、ザインが見越して部屋に呼んだのだとしたら。

 そんなことを一瞬考えて、首を振る。


「まさか、ね」


 さぁ、寝て起きれば、また訓練だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ