魔法陣 解
ばさ、と机に置かれたそれに、誠は目を丸くした。
「なんだ、これは」
紙の山から一枚拾い上げれば、これまた複雑な形の陣が描かれている。
「以下、略」
「いやいやいや」
説明を放棄しようとする那毬を止める。
「疲れたのよ」
げっそりとした那毬は、手首を振る。
手が痛い。
訓練を中断して、那毬とケイは図書室へと向かった。
そして、娯楽小説の棚を徹底的に漁った。
すると、あったのだ。
この世界にはない紙が。
一見デタラメな魔法陣の描かれた紙が。
何枚も何枚も。
あらゆる本に挟まれていた。
挟んである本の共通点は娯楽小説というだけ。
だから、娯楽小説の棚にある本は全部開いた。
「多分、これで全部」
「で」
「やっぱり禁書扱いになってたから……」
すべて、書き写した。
大きさも、印の位置も寸分違わず。
あまりの量にケイにも手伝わせたが、三枚目で悲鳴を上げた。
曰く、「整合性の無い魔法陣など虫唾が走る」だそうだ。
魔術のスペシャリストたる彼にとっては、この魔法陣は見るに堪えないものだった。
那毬はそれでも、ケイを開放しなかった。
魔法陣の「虫唾が走る」部分を抽出させ、残りの部分を描き出させた。
ケイにとっては、拷問のような時間だっただろう。
「よくやってくれたな」
「まぁ、ちょっと」
脅したり宥めすかしたり、果ては取引もした。
「ちょっとだけ、この魔法陣の事も伝えたわ」
他の神子の残したメッセージを解読したい。
それだけで、ケイは動いた。
答えが気になったのだろう。
こんな手間をかけてまで、誰かに伝えたい内容。
誰しもが、好奇心をくすぐられるというものだ。
「で、あとはこれを」
「多分……重ねればいいんじゃないかと」
紙を重ねる。
紙の向きも、幸いわかる。すべて紙の上の部分に日付を書く項目があった。
月の光に透かせば、確かに一つの魔法陣になっているように見える。
「パズルだな」
「そうね」
白紙に、新しく魔法陣を写し取る。
月明かりにかざしながらの作業を、那毬は見つめた。
なんだか、異世界の光景だ、と思った。まるでファンタジーの一場面。
そう考えて、笑う。
まさに、今こここそが異世界だ。ファンタジーの世界だ。
「何笑ってるんだ」
「いや、なんでもない」
気づいた誠が、手を止めて那毬の方へ向く。
笑って、続けてくれ、と促した。
「そういや、なんか久しぶりだな」
「なにが?」
「那毬さんが笑ってるとこ」
「……そう?」
意外な言葉だった。
そんな事、気にしていなかった。
「そうかも」
確かに、ここ最近はいろいろあって、笑ってなどいられる心境ではなかった。
「お、できたぞ」
しばらくの後、誠が歓喜の声をあげた。
「どれどれ」
那毬も紙を覗き込む。
出来上がった魔法陣は、今までのものより複雑だ。
「よく描いたわね」
「おう、褒めろ褒めろ」
その精緻な魔法陣は、一種の芸術とすら言えた。
「で、この魔法陣が何かってことなんだけど」
魔法陣を改めてみる。
印の配置、法則。そこから導き出す、魔法陣に込められた意味。
「……繋げる……、開く。呼び寄せる……魔術」
「だよな」
誠もそう感じていたようだ。
「私たちの……?」
「おそらく」
それは、この世界に神子を呼ぶ、召喚の魔法陣だった。




