魔法陣2
「おーい、訓練に集中しろ」
ケイの言葉に、那毬は慌てて顔をあげた。
意地の悪そうな顔を浮かべるケイが、那毬を覗き込んでいた。
「面白いことでもあったか?」
「ないです」
即答する。
彼は、面倒だ。それに信用できない相手だとわかっている。
「ふーん。てっきりその箱と鍵に関係あるのかと思ったが」
「え!?」
服の中へと仕舞ったペンダントが、彼の目に触れることはないはずだ。
だから箱と鍵なんて言葉が、彼の口から出るなどありえなかった。
核心をつくケイの言葉に、那毬は過剰に反応してしまった。
しまった、と思ったときにはもう遅い。
「へぇ。やっぱり、持ってたか」
「え?」
ケイの言葉に、那毬は戸惑うばかりだ。
「実際に持っているかは確信がなかったが、お前本当に分かりやすいな」
「……」
鎌をかけられたのだろう。
「なぜ、箱と鍵と?」
「魔術と神子の力は干渉しない。これは知ってるな?」
「それは、あなたから教わったから」
「じゃあ、お前に捜査系の魔術をかけるとどうなる?」
「……神子の力の部分だけが、反応をしない?」
「そう。神子の力は魔術の影響を受けないから、そこだけ形が浮かび上がる」
干渉しない。それは、逆に異常を知らせることもある、ということだ。
「ってことは、ケイ師匠、私を視たの?」
はっと気づいてケイを睨む。
「様子がおかしかったからな」
それは純粋に心配しての事だろうか。
「面白いことがあったなら言ってくれよ」
ただ単に面白いことを探しているだけだろうか。
「そうね……」
那毬は思案する。
彼は、信用できない。
けれど、信用できないと知っているからこそ、信用できることもある。
それに彼は、那毬達が知る中で一番魔術に詳しい。
神子の事にも精通している。
ならば、利用しない手はない。
「……魔術が、神子の力に反応しないっていうのは……絶対、よね」
「あぁ。魔術と神子の力は干渉しない。だが、今みたいに異常を際立たせることはある」
「じゃあ……、あ」
ちょっと待て。
那毬の思考が何かを掴もうとしている。
もっと早くに気づけたかもしれないことだ。
「ねぇ、ケイ師匠」
「なんだ」
「私達が、神子が……召喚されるときって」
那毬の言わんとしていることが、ケイにもわかった。
「そうだな。その時は、魔術を使う」
「魔法陣も?」
「あぁ」
「つまりその魔法陣は、神子の力に干渉してる」
「そうだな。召喚の魔術だけだから、説明もしなかったな」
そういうケイに、那毬は心の中で罵詈雑言を浴びせる。
いや、聞かなかった自分たちも悪い。思い至らなかったのだ。
この世界に、唯一かは知らないが、神子の力に干渉する魔術がある。
それだけわかれば、なんとなく、あの魔法陣が何かもわかりそうだ。
「もう一個、訊いていい?あ、あと図書館に連れてって」
「いいぞ」
那毬の瞳が活き活きと輝き出す。
彼女自身は知らないだろう。
神子達の表情が変わる瞬間。
ケイは、その瞬間が好きだ。面白いこと、の前触れを教えてくれる。
明日か、それとも一年先か。もっと、先の事かは知らないが。
神子達が「面白いこと」の種を植え、育んでいる。
それは、神子達にとっての希望。
ケイにとっての快楽。
この世界にとっては絶望かもしれないが、それはそれで面白い。
ケイはまったく構わない。
「この世界で木の葉を隠すなら?」
「森か林、か?」
「そういう事よね」
そう、そういうことだ。




