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魔法陣

「で?」


 昼間の出来事を、那毬は誠に話していた。


「その魔法陣は?」

「持ち出せなかったから……」


 その言葉に、誠は残念そうな表情を浮かべる。

 ぜひ見てみたかった。

 誠は魔術の腕はいまいちだが、魔法陣の図形解読は得意な方だ。

 禁書扱いの魔法陣がどんなものだったのか、興味がわく。

 それに、紙。


「紙自体は無理だったけど、魔法陣は描き写して置いた」

「ナイス那毬さん!」


 差し出された紙を受け取る。


「って、すごい複雑な陣じゃないか」

「苦労したわよ。間違いはないと思う」

「じゃあ、これを解析してみようか。紙が俺たちのいた世界のものなら、この魔法陣だって、何か意味があるはずだ」


 そうでなければ、困る。

 元居た場所に帰るための手がかり。

 最近は新しい情報もなく、ただ時が過ぎていた。


「早速やるか」

「よろしく」


 そう請け負って小一時間が過ぎたが、解析ははかどらなかった。

 複雑すぎる。

 魔術の公式の応用。そのまた応用。

 しかも、呪文はわからない。

 どの系統の魔術なのかもわからない中で、類型を調べるのにも時間がかかる。


「……識別の印。こっちは……ここで風と水の魔術の……」


 ところどころ抜き出してはみるが、脈絡がなかった。

 ただただ複雑な、大規模な魔術の魔法陣だ。


「わからん」

「頑張って」


 那毬も持っている文献でそれらしい記述を探すが、ない。


「なんの魔法陣か。神子に関するもの?」

「だとは思うんだが、複雑だ。なんか……フェイクが混じってる?」


 この魔法陣はあまりにも複雑すぎる。

 時折法則にそぐわないものが描かれている気がした。


「じゃあ、そのフェイクらしきものを抜いてみると?」

「スカスカすぎて、もはや魔法陣の体裁をなさなくなる」

「抜きすぎ?」

「となると、どれを抜けばいいのかわからない」

「困ったね」

「一日で解読できるとは思ってなかったけど、一か月以上かかるかも」


 一か月後も、こんなにのんびりしていられるとは限らない。

 そろそろ本物の魔物が生まれたり、目覚めたりしてもおかしくはない時期だ。

 もしくは、また、魔物と偽って他の何かを殺させるか。


「できれば早く解読したいが」

「焦ってどうにかなるわけではないし」

「とりあえず、もう少し頑張りたいが……そろそろ寝る必要があるか」


 夜はまだ長い。

 けれど、明日も訓練だ。

 寝不足ではいられない。


「この紙、どうしておく?」

「箱の中に入れようか」

「そうだな」


 那毬は箱を二つ作り出す。

 指の長さもない、小さな長方形の筒だ。

 白磁のようなつやがある。


「鍵は……逆に怪しまれるか」

「あ、鎖出せる?」

「あぁ」


 那毬の注文で細い鎖をこちらも二本作り出す。


「こういうのは留さんが得意なんだけどね」


 そう言いながら、魔法陣の書かれた紙を折って巻き、箱に仕舞う。その上から鎖を巻く。

 もう一つの箱には印を描き出した紙を折って巻き、こちらも箱に仕舞って鎖を巻いた。


「ペンダント」

「そうそう」

「……俺がやろうか?」

「面目ない」

「手先は器用だ」


 手こずる那毬の手から箱と鎖を受け取り、器用にペンダントを作る。


「これでいいかな」

「いいと思う」


 身につけていれば、部屋を探されても問題はない。

 誠から受け取ったペンダントは、少々武骨ながらも、ちゃんとアクセサリーの体をなしていた。


「……あれ?」

「ん?」


 不具合がないかを調べていると、魔法陣の書かれた紙が仕舞われた箱を持った那毬はふと首を傾げた。


「なんか、温い」


 人の体温より、だいぶ温い。


「本当だ。こっちは何ともないのに」


 印を抜き出した方は、なんともなかった。


「この魔法陣に反応してる?」


 いままで、箱や鍵の力が、魔術に影響されることはなかった。魔法陣にしても同じだ。


「どういうこと?」


 それは異常だった。



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