表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/92

狂気の始まり

「それで」


 窓の外の光景に、イネスが口を開いた。

 そこには那毬と誠、そして留がいた。周囲を兵が囲んでいる。ハインケル伯爵もいた。


「なぜあの神子様はここにいる?」


 その声は、冷たい。


「領地回りに同行させるよう手回しはした。あとは……」


 不慮の事故を装ってその命を奪えばいい。


「申し訳ありません」


 二人の兵はそう言って、ただ許しを請うだけだ。

 しとしとと、ここ数日降り続く雨のせいで、気温は低い。

 けれど、二人の額には汗が浮いていた。


「仕掛けは」

「崖の道で、神子様が崖側を歩くよう誘導し、隣を歩くスカラバの足元に、罠を」

「まどろっこしいな」

「第一に、誰にも悟られぬように、とのことだったので」


 仕掛けの前後に悟られてしまえば、すべてが台無しだ。

 この数年をかけて育てた箱と鍵の神子も。


「罠は正常に作動しました。神子様は、崖に……」

「ならばなぜ、神子様はここにいる?」


 イネスは最初の問いを繰り返す。


「神子様の後ろにいた兵……ザインが神子様の足を掴んで、引き上げたので」

「予想外の邪魔が入ったというわけか」


 ザインは、確か訓練兵の教官だ。

 訓練兵である留の事を、気にかけていたのだろう。


「ザインは、楔の神子様にあまりいい感情を抱いていない、と。そう、聞いておりましたが……」


 どうやら違ったようだった。

 否。

 ザインという兵は、何より自身が兵であることをわきまえていた。

 教官という役を与えられ、兵としてその役を全うしようとしているだけだ。


「ハインケル伯爵の子飼いの兵か」


 なるほど、良い教育をしているようだ。

 だが。


「邪魔だな」


 計画の遂行には、邪魔だ。


「ザインという男は、こちら側に来るような男か」

「堅物で、あまり話をしません」

「正直、難しいかと」

「そうか」


 イネスは少し、思案した。

 どの駒をどう動かそうか。

 イネス自身が、王の駒だった。だから、駒として動くことには慣れているが、駒を動かす側は慣れていない。

 王都が機能しない現在、王の意志のもと、動く駒。それがイネスだ。そして、他の駒を動かす指揮者でもあった。

 王とは物理的な距離もある。

 そもそも王達は、その身の安全のためどこにいるかは機密事項だ。

 時折住処を変える王達の場所はハインケル伯爵すら知らない。

 王の指示を仰げない今、イネスが独断で行わなければならないことも多い。

 事後報告も増えていた。

 王はそれを許し、さらなる力をイネスにゆだねる。

 その一つが、目の前の兵達だ。

 行っていい、と手をふる。

 二人の兵はほっとした表情を浮かべて部屋から出ていった。

 まだ、彼等には使い道がある。


「悪くない」


 駒を動かす側、というのも悪い気はしない。


「次の手、か」


 窓に目をやると、隊列は解散していた。

 神子達の姿もない。

 イネスは腰を上げた。


「迎えにいかねば」


 愛しい箱の神子と鍵の神子の元へ。



 

「ふーん」


 イネスのいた部屋の真上。


「面白いことになってるな」


 ケイはほくそ笑んで、そっと部屋を出た。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ