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祈り

評価とか―感想とかーあればうれしいな、なんて。

話すすまんねぇ……

不穏だねぇ

 秘密の会議は、そのまま終わった。

 気まずいまま朝が来て、イネスたちの前では平静を装った。

 そうして一日が経ち。

 留は何も言わないまま領地回りへ行った。


「何かあったのか」


 ケイがそう訊いてきたのは、昼を過ぎたころだった。


「何かって?」


 問いを知りながら、那毬が訊き返す。


「留と、何かあったのか」

「……」


 少し思案して、那毬はあっけらかんと言う。


「特に、何も?」


 その言葉に、一番驚いたのは誠だった。

 剣呑な雰囲気だったではないか。

 那毬の顔をうかがうが、嘘を吐いているようにも感じない。


「やだ、本気で怒ってると思ったの」

「本気だっただろう」


 思わず言った。

 那毬は確かに不機嫌だったはずだ。


「まぁ、最初は」


 那毬は誠の言葉を肯定する。


「でも」


 硝子越しの空を見上げる。

 少し、雲が出ている。快晴とは言えない空だ。


「仕方ないかって納得もした」


 空から目をそらし、ケイと誠を見る。

 少し、寂しそうな顔だ。


「抱え込むのが癖だしね、留さん」


 仕方ないのよ。そう言って、微かに笑う。


「どうあっても話せないこともあるだろうし」


 那毬達も、留に聞かれなければ話さなかったかもしれない。

 人を殺したなど。口にしたくもなかった。


「まぁ、それでも」

「話してほしかったな」


 誠が言った。


「うん」


 もっと、頼ってほしかった。

 この世界に、たった三人きりなのだから。

 ましてや那毬と留は、元の世界からの長い付き合いだ。

 仲もよかった。


「親しいからこそ言えないことっていうのもあるしなぁ」


 ケイが言った。


「イネスさんに言えないこと、してますもんね」


 彼は世界を裏切り続けている。

 ケイが笑う。


「イネスだけじゃない」


 ハインケル伯爵にも、他の者にも、内緒だ。

 那毬達にだって、たくさん隠し事をしているだろう。


「それに、どちらかといえば、イネスが俺に隠していることの方が、よっぽど罪深そうだ」


 口元をゆがめる。


「あれ、ケイ師匠怒ってますか?」


 それは、不機嫌な表情だ。

 那毬の言葉に肩を竦める。


「楽しそうなことに関わらせてくれないからな」

「あぁ、なるほど」


 ずるい、というところか。


「ところで」


 ケイが表情を硬くした。


「怒っていない、喧嘩していないのなら、どうしてあんな送り出し方をする?」


 今朝。

 留達は出立した。

 見送りに出た那毬達は、表面上仲良く別れを惜しんだ。

 けれどそれは、ケイから見ればわだかまりを残したままに見えた。

 それは視線や動作一つ一つであったり、声音であったりと僅かな違いではあったが。

 確かなものだった。


「ちょっと、反省してほしかったから、ですかね」


 でなければ留は、もっともっと抱え込んで、つぶれてしまう。

 那毬はそう思った。

 もう少し負担を分けてほしい。そう言うだけでは、留は笑って、その荷物を分けてはくれない。

 だから、嫌な方法だとは思ったが、不機嫌なふりをした。

 そうすれば嫌でも、留は考えるだろう。

 そう期待した。


「愚かだな」


 その那毬の考えを、ケイは否定した。

 声は冷たい。


「お前たちのいた世界は、次が約束されていたかもしれない」


 その言葉に、那毬と誠はハッとする。

 そう。

 二人も、留も、わかっていたはずだ。


「この世界で、この情勢で。次があると楽観視できるならば、とんだ見込み違いだ」


 また、を切に願ったのはいつだったか。

 記憶は鮮明だ。


「会えて満足したか。その奇跡を当然と思ったか」


 ケイは言う。


「……」


 那毬も誠も黙った。


「留も愚かだな。それとも」


――それでいいと思ったか。


 その言葉に、那毬は拳を握る。


「それは」


 声が震えた。


「私達と、あのまま離れていい、と。そう思ったと?」

「可能性の話だ。まぁ、どちらにせよただの愚か者だろうな」


 ケイは大きなため息を吐く。


「しっかりしてくれよ。期待してるんだ」


 それだけ言って、ケイは話は終わった、と立ち去った。

 残された二人の表情は暗い。

 外は、雨が降り始めていた。

 雨の日に鳴く虫の鳴き声が聞こえる。


「……雨だな」


 わかりきったことを言う。

 誠はそんな事しか言えなかった。


「雨ね」


 那毬も短く答える。

 恵みの雨だろうか。それとも不吉な前触れか。


「大丈夫だ。留さんが、ただで死ぬような人じゃないのは知ってるだろ」

「そうね」

「次はくる」


 何の根拠もない。


「また、会える」


 それは、祈りの言葉だった。

 雨は、幾日も続いた。


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