亀裂
不穏。
イベントはもうちょい先延ばしにしようそうしよう。
「やってしまった」
「らしくない」
月が那毬の部屋を薄く照らす。
いつものように人目を忍んできた誠が、うなだれる那毬に声をかける。
「ほんとに」
そして当然のように、留がベッドに腰かけていた。
「どうしたの?」
留が尋ねる。
門を通ってきた彼女は、すでにくつろいでいた。
「いや、なんか……理不尽だなって思ったら」
止められなかった。
そう言って那毬は下を向く。
「勝手に呼び出して、勝手に選別してさ」
それが、気に食わないのだと那毬は言う。
「でも、元居た世界で、私達もそうしてきたし、そうされてきた」
成績で、容姿で、男女で。区別も差別もされる。
選ばれない、ということも、選ぶ、ということもしてきた。
「そうなんだけど。露骨すぎ」
「呼んでおいて、な」
誠も正直気分が悪い。
「そうねぇ。まぁ、この世界が傲慢なのは知っていたけれど」
異邦人に敵を滅ぼせ、世界を救えとのたまう。
自分たちで勝手にしろ、と言えたらどんなに楽だろうか。
「二人も相当な目にあったんじゃない?」
「……」
「……」
この世界は傲慢で、けして三人に優しくはない。
「最初は誰か、わかったの」
「狂言」
「間違いなく、人の集落だった。魔物はいない」
それは、「初の魔物討伐」の話だ。
まだ、夢に出てくるほど鮮烈な、新しい記憶だった。
「……そう」
「殺したわ」
那毬達は、従うことを決めた。
だから、集落の人間を、殺した。
「そう」
留はそれだけ言って、黙る。
二人を責めはしなかった。
責められるはずがない。
「私が、もっと早く気づけば……いいえ」
首を振る。
「気づかない方が、良かった」
そうすれば、人と気づかずに事は終わったかもしれない。
正しくはないかもしれないが、辛い思いはしなくて済んだ。
「留さん」
那毬が強く呼びかける。
「隠し事、してない?」
「なんのこと?」
那毬の言葉に首をかしげる。
「変わった」
「え?」
「留さん、変わった」
「雰囲気が違う」
「離れていたせい?」
わからない、と留は訊く。
「とぼけないで」
鋭い口調で、那毬が言った。
「嘘、ついてる」
「……」
「那毬さん」
誠が落ち着いて、と声をかける。
外に声が漏れるのは拙い。
「私、嘘吐くの下手かね」
短く息を吐いて、留が笑った。
「……」
「うまいから、不安だ」
誠が言った。
彼女の嘘を、見破れる気がしない。
だから留が一人で何をしているのか、全くわからない。それが、不安だった。
「……たいしたことはないと思う。受ける教育が二人と違うものになった。考えが変わることもある。兵として働くことだって、ある」
それ以上を、留は言わなかった。
人を殺した。
そう告白するのが、留は怖かった。
だから言えなかった。
臆病だったのだ。どうしようもなく。
そして卑怯だった。
「それならいい」
那毬が言った。
「もう、いい」
それは、否定の言葉だった。




