帰省
ちょっと休憩、な回
「久ぶり」
獣車から降り立った留に、那毬と誠は駆け寄った。後ろからザインもおりてくる。
留は少し痩せた気がする。
もともと小柄な少女だが、さらに。
那毬が手を握る。
少し、固い。
「聞いて」
留が得意気に二人を見る。
「腕立て伏せ、未だできない」
その言葉に、那毬と誠以上に、ケイとイネスが驚いた顔をした。
「うっそだろ」
「訓練兵になって半年……」
「腕立て、できない」
重ねて、留が言った。
「よく、やっていけますね」
「よく怒られます」
イネスの感心ともとれる言葉に、留は恥ずかしそうに笑った。
実際、腕立てができないものなど周りにいない。
「まぁ、他で補えてますから」
成績表です。
そう言って、イネスに書類を渡す。
「……持久力がないわけではない。瞬発力もある。ただ、腕力がない」
「脚力はまぁそれなりですかね」
「どういう作りしてるんだ」
「私が訊きたいところです」
困っているのは、留と教官だ。ザインも苦い顔をする。
さぼっているわけではないのは見てわかるが、こうも身を結ばないというのも不思議なものだった。
魔術や座学もできる部類のため、余計にそこが際立った。
「まぁ、それはそれとして」
置いといて、と手で物を置くジェスチャーをする。
「二人の話が訊きたいな。久々だし」
那毬と誠を見る。
口数の少ない二人も、やはり何かあったのだろう。
話を聞きたかった。
「私達も同席のもとでよろしいですか」
「構いません。……って、私が言うことじゃないですね」
思わず留が答えて、笑う。
この中で一番階級の低い人間は、留だ。
訓練兵、招かざる三人目の神子。
「……いえ」
イネスがそっと首を振った。
「急に大人びたか?」
ケイが茶化す。
「ザイン教官が厳しく躾てくださって」
はは、と笑うと、ザインが苦い顔をした。
「ハインケル領の兵として恥ずかしくないように、だ」
黙っていられなくなったザインが思わず口をはさんで、すぐに口を噤む。
彼は二番目に階級が低い。
余計な言葉は慎むべき、と判断しての事だった。
「私は、ハインケル伯爵に挨拶を」
「あ、私もですね」
留も後に続く。
今回の帰省のための荷物を、各々が持つ。
「また、日程を調整いたします」
「よろしくお願いします」
深く礼をして、留はザインの後を追う。
「留!」
その背に、那毬が声をかけた。
「ん?」
振り返った留の表情は穏やかで、那毬は次にかける言葉を失った。
――何が、あったの。
そう、聞きたかった。
那毬達は「魔物」を殺した。
留にも何か、あったのではないか。
雰囲気が違う。
ただ、ここを離れて兵となったから。
それだけではないような。
それは、ただの勘だ。なんの根拠もない。
「また……あとで」
「訓練の話、聞かせろよ」
だから、何も聞けない。
ましてやイネスたちのいるこの場で等。
那毬と誠の言葉に頷いて、今度こそ留は離れていく。
帰ってきたはずの留が、何故だか遠い。




