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襲撃後

 公式には、魔物が集落を占拠し、集落の人間を洗脳した、ということになった。

 洗脳を解く方法はなく、仕方がなく、軍が集落を壊滅させた、と。


「うっ……ごめんトイレ」


 那毬が顔を青ざめさせて立ち上がる。

 ふらふらと、足取りもおぼつかない。


「大丈夫なのか、あれは」


 その様子を見たケイが、誠に尋ねる。

 玩具が壊れてしまっては、彼としても困るところだ。


「ここに戻ってきてから、調子が悪い」


 帰りの道中では、まだ気が張っていたのだろう。一見すると普通の様子だった。


「お前は、平気なのか」

「彼女よりは、慣れている」


 誠は元の世界では、外科医だった。人の生き死にも、通常の人たちよりは達観できている。

 ただ。

 自分の意志で、誰かを殺したことに、彼自身もショックを受けていた。

 仮にも人を救おうと医師を志した身だ。

 それが、人を殺めることになるとは。


「目撃者がいないなら、まぁ、それで落ち着くんだろうな」


 誠が話を戻す。

 ここは那毬の部屋だった。

 体調を崩した彼女の見舞いと、治療の目的で、誠とケイは彼女の部屋を訪れていた。

 精神安定の魔術をかけたものの、効きは今一つのようだった。

 それほどまでに、精神に強い負荷がかかっていた。

 覚悟したこととはいえ、罪なき人を殺すことなど、簡単には割り切れない。


「それで、本当のところは」


 ケイには、この襲撃の背景を調べてもらっていた。


「反王権の色が強い集落ではあった。出身の者には、活動家もいる」

「集落ぐるみで?」

「いや、集落自体は、税も納めていたし、反王権とはいえ穏健派だったようだ」

「じゃあ」

「当然、魔物はかんでない。反対勢力の排除に利用されたってところだろう」

「……そうか」

「大体、予想はつくわ」


 真っ青な顔で、那毬が戻ってきた。


「政府は魔物を討伐したと、実績を作れるし、私達にはこうして後戻りができないことを意識づける」

「ついでに反抗的な勢力を潰して、他の反王権派への見せしめもできる」

「いいことづくめね」


 自虐的に笑う。


「それでお前たちは?」

「このまま従うわ」

「魔物を倒した、と思い込んでいるふりを続ける」


 そうでなければ、意味がない。


「頑張るな」


 ケイが言った。からかい半分、関心半分、といったところだ。

 彼女たちの精神は、傍から見てぎりぎりだった。


「今回の事で、イネスさんの一面も知れたしね」

「あれは、軍人だからな」

「そういうことね」


 国の利益のために動く。それが、イネスだ。

 そのために、いくらでも冷酷になれる。

 優先すべきが何か、はっきりしているのだ。


「魔物より人間の方がよほど怖いってもんだ」

「それね」


 乾いた笑いが漏れる。


「留、元気かしら」


 話したいことがある。

 何より顔を見たかった。

 手を汚した自分たちとは違う。

 綺麗な手の、留に会いたい。


「近いうちに、会えるよう手配しよう、訓練兵の長期休暇がもうすぐあるはずだ」

「お願いします」

「明日から、通常通り訓練だ」

「わかりました」


 時間が流れる。

 日常に、戻っていく。



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