襲撃
くっらくなりました。
ごめんなさい。先に謝っておきます。
ジャンジャン死にます。
いくつもの火矢が放たれる。
門を超えて集落の中へ。
門を破壊しようと魔術を行使する魔術兵達もいる。
夜の闇に、橙の火が燃え盛る。
火の爆ぜる音がうるさい。
と、同時に、集落の中も俄かに騒がしくなる。
怒号が聞こえる。
炎の音にかき消され、何を言っているかはわからない。
けれどその声は、複数あった。
「イネスさん……」
隣に立つイネスを誠が見上げる。
「人が……」
生存者が、いるのではないか。
そう、問おうとした言葉は、飲み込まれた。
そこには、見知った人の顔はない。
隣にいるのは、確かにイネスだ。けれどまるで別人の顔。
轟音と共に門が壊された。
「突入!」
イネスが号令を出す。
人の流れに、誠も、那毬も従うしかない。
周囲の兵と共に走る。
「人が、いる!」
「どういうこと」
「わからない。けど」
人の波にのまれながら、誠と那毬は言葉を交わす。
悲鳴が聞こえた。
そちらに目を向ければ、応戦しようとしたのだろう。鋤を持った男の胸に、兵の槍が突き立てられる。
「見るな!」
誠が那毬に言うが、二人ともその光景を見てしまった。
「っ!」
「くそっ」
周囲を見渡す。
あちらこちらで悲鳴が上がる。
泣き叫ぶ声がする。
その声は、姿は。
「たすけ……」
人そのものだった。
「イネスさん!」
必死で指揮官の姿を探す。
この集落にいるのは、人だ。
町にいた人と同じだ。
イネスや兵と同じだ。
「やめてくれ!この人達は!」
そう、叫びながら彷徨わせた視線の先に、イネスがいた。
扉の壊された集会場から引きずり出された女。
その腕に抱えられているのは、小さな子どもだ。
そして、その女に。
ためらいなくイネスは刃を突き立てた。
「……イネス、さん」
「だめだ」
誠の袖を、那毬が引っ張る。
だめだ。
今、この場で、できることがあるだろうか。
「この!」
集落の男が、立ち尽くす二人に襲い掛かる。
「那毬さん!」
とっさに誠は持っていた剣を握り、那毬と男の間に立った。
剣を振るう。
「あ……」
その剣は訓練通り、相手の急所を突き。
その剣は訓練とは異なり、相手の命をたやすく奪う。
男はその場に崩れ落ち、絶命した。
「……なんで……。どうして」
こんなことを。
「誠さん!」
人を手にかけた。
誠はその事実に打ちのめされ、一瞬周りへの注意を怠った。
那毬の言葉に我に返ると、目の前に短剣を握りしめた女が駆けてきていた。
すぐに反応ができない。
「っ箱!」
那毬が箱を出す。
障壁の代わりにしようと、誠と女の間に展開する。
箱に阻まれた女は、憎しみのこもった目で二人を睨みつける。
「……やる……」
彼女の最期の言葉は聞き取れなかった。
きっと、怨嗟に満ちた言葉だった。
女は短刀を自分の首にあてると、そのまますっと刃を滑らせた。
箱が赤い飛沫で彩られる。
止める間など、なかった。
「ここは……」
「人の、ただの人の集落」
さっきから、殺されるのはろくな武装もしていない人間だった。
あらかじめそうしろと決まっていたように、兵もイネスも淡々と人間を殺していく。
あの時、ケイは言った。
『一つ、気になることはある』
魔物が占拠した記録はない。
そして留の残した紙には。
『最初は、誰』
違和感は初めから。
考えるヒントは十分すぎるほどあった。
集落を魔物が占拠した。
集落から出てくる者は、いない。
では。
誰が占拠の事実をイネスたちに伝えた?
誰が「魔物の仕業」と言い出した?
「魔物何て、はじめから」
「……いなかった」
煌々と炎に照らされる躯は、当然ながら微動だにしない。
けれど、彼らが答えだ。
「誠様、那毬様!」
イネスの声が飛ぶ。
「そちらに魔物が!手筈通りに!」
その声に、二人は素早く視線を躱す。
覚悟を、決めた。
「箱よ」
「鍵よ」
向かってくるその速さは確かに生身の人間とは違う。
予想はつく。
この集落の、祈祷師。
集落で魔術の扱えるものは、地位を与えられると聞く。
この集落では「祈祷師」として存在していたのだろう。
魔術の力で、素早く移動できている。それだけの、ただの人だった。
那毬たちの目の前で、箱に閉じ込められていく。
誠の鎖がその箱を這う。
「閉じろ」
「施錠」
蓋をしめ、施錠する。
箱の中から、断末魔のような声が響いた。
実際、断末魔なのだろう。
鍵のかかった箱が消えたとき、そこには何もなかった。
「お二人とも、素晴らしい働きでした」
イネスが二人の元へ歩いてくる。
この、襲撃に一枚どころか噛んでいるだろう。その男が。
「……疲れた」
それだけ、答えた。
目を、合わせられなかった。
この襲撃を企てたのが誰かはわからない。
けれど、その計画を、イネスは、兵は、知っていたはずだった。
――最初は、彼らの計画だ。
けれど、その計画に、那毬も誠も、乗った。
人と知りながら、人を、殺した。
これは、彼らの選択だった。
三人で、迎える結末のために。
彼らは取捨選択をした。
「……」
後戻りは、できない。
当の昔から。




