夜の街で
ーー甘い。
那毬は留の作り出した門を通って街へと出ていた。
3時間後同じ場所に、留が門を開く手筈になっている。それまでに、この場所に帰って来なければならない。
門が消えた裏路地から出て、那毬は夜の街を歩く。
人通りはなく、街には月明かりが差し込むだけだった。
「……」
静かだ。
遠くで何かの鳴く声が聞こえてくるだけだった。
1人街を歩きながら思考を巡らす。
ーー私たちは、まだ甘い。
この世界の歴史を学び始め、図書室の本を読みはじめ、そうして至った考えがそれだった。
十分注意をしているつもりではある。
けれどケイには正体がバレてしまった。
留は彼を、すぐに危険はないと言っている。
けれど彼が、もっと「面白い」ことに惹かれてしまったら?
裏切らないなんてことはないのだ。この瞬間にも、誰かに話してしまっているかもしれない。
それに。
歴史の講義と歴史書の差異。
それはわずかなものだった。
けれど、それが意図的に行われているのだとするなら。
幼い那毬たちに誤った歴史を、価値観を刷り込ませる。そうすることによって、自分たちに都合のいい駒に仕立て上げようとしているのではないか?
イネスは神子の那毬達に、ある意味服従しているように見えた。
心酔、畏敬、信仰。
そういうものを感じる。
けれどその彼が、間違った情報を与える張本人なのだ。
彼も味方とはいえない。
誰も彼も、皆そうだ。
だから。
正しい情報が欲しい。
例えば誠が隠した情報。
血の匂いをさせて帰ってきた誠はそれ以来様子が変だ。
何かを隠している。留もそれに気づいたようだったが、特に問いただしたりはしていない。
留にしてもそうだ。
何かを隠している。
能力を偽る、と言った時から、彼女には何かを考えがあるのだ。
ただその選択が、正しいかどうかはわからない。
けれど予想しうる限り、最悪を考える必要がある。
死。
3人のうち誰かが、あるいは全員が死ぬこと。
離別。
3人が引き離されること。
その二つは何よりも避けねばならない。
そして、万一その二つの危機が訪れるような時には。
現実的な逃亡手段を考えねばならない。
だから。
街へ来て那毬がすることは二つ。
真実の情報を手に入れる。それも新鮮なものだ。なんのバイアスもかかっていないものが望ましい。
だから、ケイには頼めない。
時事、情勢。そういうものを常に手に入れる必要がある。
そして。
逃亡の際必要になるだろうお金を稼ぐこと。
「やあ、お嬢さん。こんな夜中に1人でどうしたんだい」
野卑な声が聞こえる。
裏のものは、夜に動くのが常套。
待ちに待った情報源だ。
「知りたいことがあるのだけれど、おじさま」
そう言って、那毬は笑みをたたえて振り返った。




