秘密
み…短い上に話が…。話が進まぬ!
誠は鬱々とした気持ちを抱えたまま、次の朝を迎えた。
「なんか、暗い顔してるね」
那鞠の言葉に、留もチラリと視線を向ける。
「いや、昨日寝れなくて」
ははは、と乾いた笑いを向けると、深くは聞かないけど、と大人の対応をされる。
それが、今はありがたい。
昨日の解剖の結果、そして導き出した一つの推測を、誠は2人に話すことができなかった。
残酷な話だ。
異界へと召喚され、魔王を倒せだなんだとこの世界の事情を押し付けられて。
その結果が。
ごほ、と留が咳をした。
「留さん!」
背筋が寒くなる。
「…大丈夫よ。そんな青い顔しなくても」
思わず叫んだ誠の顔を見て、留が心配そうに声をかける。
その顔をみて、自分がどんな顔をしているか自覚する。
だめだ。
これではダメだ。
勘付かれてしまう。
ーー寿命がどれだけかは知らないが。
昨日、ケイは川で言った。
ーー記録はどれも召喚後10年から15年の間のものばかりだな。
それは、つまり。
「大袈裟ね。まるで私が死ぬみたいな」
神子が短命であるということではないのか?
空気を取り込む肺。そこにあった、この世界の人間特有の器官。
あれがもし、この大気の有毒物質をろ過する器官だとしたら。
それがない自分たちはどうなる?
その毒に、無防備にさらされてしまう。
飛躍し過ぎた話だ。
突拍子も無い。
けれど誠は、その考えを払拭できなかった。
2人には、言えない。
「今日、街に出るらしいのだけど。そんな様子で行ける?」
「街?」
「えぇ、市政の勉強のために…なんて」
おどけたように那鞠が言った。わざと明るく振舞っている。気を使わせてしまっているのだろう。
「2人は行くのか?」
「えぇ、もちろん。道を作っておきたいしね」
留の力は、一度行ったことのある場所でなければ門を築けないのだ。
前に進むために、彼女たちは足掻こうとしている。
なら。
「気晴らしになるしな。当然行く」
彼女たちには、言えない。