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生きるために

 とりあえず、とこの世界に飛ばされてからずっと着ていたぶかぶかの服を着替える。


「……お持ちしたもののなかでは、これらが一番動きやすいかと」


 イネスが用意した子供用の服は、それでも今から行われるであろうコロシアムでの行いとは不似合なものだった。


「……」

「……」

「……」


 三人は沈黙したままだ。黙って服に袖を通す。


「…神子様たちが身に着けていたものは、こちらに置いてあります。


 そう言って指差された場所には、三人の荷物や衣装が丁寧に置かれていた。


「必要なものは持って行ってください」

「……」

「私の力不足で、神子様に危険な行為を強いることとなってしまいました。大変申し訳ありません。出来うる限り助力はさせていただきますが……」

「舞台に立てば、俺たちは何もできない」


 面白くなさそうな顔で、ケイが言葉を継ぐ。


「……せんべつしきって…何する、んですか」


 口を開いたのは誠だ。


「……おそらく、ですが」


 イネスは言いずらそうに、三人を見る。


「殺し合いです。相手が獣か人かはわかりませんが、とにかく、どちらかが死ぬまで…。神子様たちは、三人で一緒に戦うことになると思います。選別式では、たしかそういう方法をとっていたはずです。もっと平和的な選別式もあるのですが」


 三人の予想は、的中していた。


「疲労回復の魔術を施そう。一人ずつ来てくれ」


 ケイがそう言って手招きする。

 三人は顔を見合わせて、那毬が最初に行くことになった。


「荷物、確認しておこう」

「っつっても、スマホと財布くらいだな」

「情報社会の武器は役に立たないわよ」


 いささか青い顔をして、声を潜めて話す。


「……いや、どうだろうな」

「?」

「スマホ、何台ある?」

「那毬と私とあなたので三台」

「使えないことも、ないかもしれない」

「……」

「ただ、目くらましにしかならないだろうが」

「……武器の一つや二つ、渡してくれるのかしらね」

「さぁな」


 そういいながら、さらに物色する。


「仕事、何してたの?」

「外科医」

「……患者さん、おいてきちゃたわね」

「そうだな」


 帰れない。そして今、三人は死にかけている。

 その事実は、表情を暗くするだけだ。


「ん」


 留が荷物の中から何かを取り出した。


「俺の靴下かよ」

「……小銭、持ってる?」

「は?」


 留自身も、自分の財布から小銭を出す。出した小銭は、靴下に詰めていく。


「ブラックジャック、知ってる?」

「天才的な医者の話なら」

「武器にも、そんな名前のがあるのよ」

「へぇ」

「石とか詰めて、棒状にするんだけど…これが限界ね」


 バッグの紐を小銭を詰めた靴下に結わえ付ける。


「……鎖文銅になっちゃったけど」

「振り回して使うやつな」

「そうそう。あとは…美容ばさみくらいかな」


 何もないよりは、マシだ。

 スマホ三台、鎖文銅まがいの即席武器と美容ばさみ。何とも心もとない装備だ。


「次の人ー」


 那毬が幾分かよくなった顔色で返ってくる。


「二人に覚えてもらいたい言葉があるから、ケイさんから聞いてね」

「ん?わかった―」

「ところで能力の件だけど」


 荷物のある場所で三人は肩を寄せた。


「この状況で使えるようになったら?」

「使うのは避けるべきだ」

 

 この強硬な態度を見れば、おまけとしてきた三人目の安否がますます怪しくなる。


「でも、それで死んだら意味がない」

「じゃあ…五体満足のうちは使わない」

「…そうだな」


 ケイのところに向かう誠が振り返った。


「ちょっと作戦たててみた」

「作戦とは言えないけど。マシにはできそう」

「こっちも」


 それぞれ、考えることは同じだ。

 現状の打破。

 それが最優先だと、三人とも把握していた。だてに二十数年生きてきたわけではない。


「三人で、生き残ろう」




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