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ハインケル邸にて。

 半ば予想していたとはいえ、イネスの反応に三人は落胆を隠せない。

 黙り込んでしまった三人に、イネスたちもかける言葉が見つからないのか、それ以降車中には沈黙が下りた。

 三人はそれぞれ思考を巡らす。

 とにかく情報もほしいが、三人で話し合いもしたい。

 そうは言っても狭い車中ではそれもかなわない。


「……着きました」


 イネスが御者からの合図で外を見た。


「うわぁ…」


 それは三人が思わず声を上げるような大きさと、美麗さをもつ城だった。いや、イネスはこの建物を屋敷、と言っていただろうか。


「しばらくこちらでの滞在となります」


 徐々に速度を落としていく車中から、留は気になるものを見つけた。

 遠目からだが、丸い形をした建物。こちらもかなりの大きさだ。


「……あれは…」


 指を差せば、イネスとケイは一瞬硬い表情を見せた…気がした。


「劇場です。ハインケル伯爵は、観劇などの娯楽がお好きなのですよ」

「…………」


 二人の表情の意図がつかめず、それ以上留は何も尋ねられなかった。

 完全に馬車のようなものが停車すると、三人は改めて屋敷の大きさに圧倒された。

 束の間その大きさと華美さに目を奪われていると、声がかけられた。


「神子様!ようこそいらっしゃいました」


 声の方に目を向けると、そこには恰幅のいい中年男性が立っていた。身なりから察するに、上流階級の者だろう。


「ハインケル伯爵!本日は急な来訪を受け入れてくださり、誠にありがとうございます」


 イネスが膝をつき、深々と頭を垂れる。

 周りの騎士らしきもの達もイネスに倣う。


「構わん。それより、神子様を屋敷に招くことができるなど、こんな栄誉なことはない」


 そういいながら、ハインケル伯爵は、三人に近づく。

 イネスたちのように、片膝をつき、首を垂れる。


「お初にお目にかかります。このハインケル領領主、ペンズ・ハインケルと申します。このたびは神子様へお会いできたこと、更にこの屋敷にご滞在いただけること、誠にうれしく、感激の極みでございます。農業と観光しか取り柄のない領ですが、出来うる限りのおもてなしをさせていただきます故、旅で疲れた身体をどうぞお癒しください」


 流暢に流れる言葉に、三人は何と答えていいかわからず沈黙する。


「…と、言いたいところなのですが」


 ハインケル伯爵が頭を挙げ、三人を見る。その目は言葉と裏腹に、三人を品定めするような、ぶしつけな目だった。


「これより、神子様の選別式を行うように、と王より言付かっております」

「選別…式…?」

 

 聞きなれない言葉に、那毬が聞き返す。


「ハインケル伯爵!?」


 イネスが焦ったような声を出す。


「あぁ、君たちには伝令が届いていなかったかな?」


 イネスはケイを見る。ケイは黙って首を振った。


「王がな、早急に『箱』と『鍵』の神子を見つけろと言うのだ。やり方は、こちらで決めてよい、と。いくつかある選別式から、私の好みで一つ、決めさせてもらったよ」

「まさか……」

「人の真価を見るには、あれが一番だと思ってな」


 ハインケル伯爵が指差したのは、先ほどの円形の建物。


「観客はすでに招いている。相手も吟味したぞ」

「お考え直しください!神子様は今日こちらへ来たばかりで、疲れ切っています!」

「そんなもの、魔術で治せばよい。ケイ、と言ったかな?彼は王都でも指折りの魔術師だろう?」

「ですが……子供ですよ!?獣相手に、何ができるというのです!?

「何もできなければ死ぬだけだ。そもそもそんな弱いものに世界を救う力があるとは思えない」

「それは、彼らがまだ子供で…」

「私の意見に口を出すつもりか?イネス公。三流貴族の分際で、私に楯突くと?」

「…それは……」


 イネスが苦い顔をする。


「とにかく、決まったことだ。神子様たちには、あちらに移動してもらえ。私もすぐ行こう」

「……は」


 力なく頭を垂れるイネスの顔は、うかがい知ることができない。


「……あぁ、そうか」


 留がつぶやく。

 小さな声だ。隣にいる那毬と誠にしか聞こえなかっただろう。


「コロッセオ…コロシアムに似ていると思ったんだ……」


 円形の建物。古代ローマで似たようなものがあった。

 そこでは一つの庶民の娯楽が行われていた、らしい。

 剣闘士の戦い。

 そして、公開処刑。

 奴隷階級を剣闘士としてコロシアムに立たせ、剣闘士同士や、獣と戦わせる。もしくは、異教徒や罪人の公開処刑を見物させるための娯楽施設。そんな場所だ。


「……まさか」

「………」


 那毬と誠も、留と同じ思考へ行きついたようだった。


「……こんなにも早く、強硬手段に出るとはね」


 苦々しく呟く留の言葉に、那毬と誠は予想が外れることを祈るしかなかった。




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