終わりの話1
「第三門、突破されました!」
「第四門にてバルト様が交戦中とのことです!」
「急報です!バルト様戦死!戦死なされました!周囲の者も次々と……!」
慌ただしくなる広間の中央で、玉座に座る男が一人。
面白くなさそうな顔をしている。
この魔王城の城主、魔王だ。
「思ったより早いな。バルトを破るほどの攻撃力を持っているとは思えなかったが」
「見た限り、『箱』の力の応用みたいね。身体の一部だけ『箱』に封印してしまえば、たとえばそれが頭部なら、生命活動は維持できないわ」
「ふん。お前がマグマや水を出すのと同じようなものか」
「そ、応用は幅広いのよ」
玉座の隣に立つ女を見やる。人間の女だった。
この魔王城で捕虜を含めなければ唯一の人間だ。
年のころは一七、八と言ったところか。身なりはよく、厚遇されているのがわかる。
「さぁ、そろそろ仕上げにかかるわ」
「バルト一派はこれで掃討できたしな。私にも異存はない城内の軍を退かせよう」
少女は広間の中央に書かれた複雑な文様を前に、手を組み祈りをささげるような恰好をする。
彼女に仕える神などいない。
だから、その行為はただの儀式の様式に過ぎない。
文様が鈍く光り始める。
「……お前は、良いのか?」
おもむろに魔王が少女に尋ねた。
「……門はこちら側から開いて閉じるしかないからね。必然的に残ることになるわ」
「それで、いいのか?」
そこに彼女の感情は反映されていない。
「…いまさら、顔向けなんてできないわよ。何年も…もう十年くらい?彼女たちを裏切る形をとってしまった」
「弁明はできると思うが」
「ダメよ。いらぬ悩み事を一つ、作ってしまうだけだわ」
振り返った少女は、魔王に笑いかける。
「いいのよ。残ると決めたのは私。あなたのそばにいるわ」
「……優秀な部下を持ててうれしいよ」
「優しい上司に恵まれて幸せよ」
彼女は笑ったが、うまく笑えたかは魔王にしかわからない。
「……来るわね」
少女がそう言った瞬間。
扉が開かれた。
「魔王よ!お前を倒しに来た!再び長き眠りにつけ!」
「あんたで終わりよ!」
扉から駆け込んできたのは剣を持った少年と少女だ。
「……終わらせるのは、私たちの方よ」
魔王の前に、黒いマントを羽織った少女が立つ。
「……久しぶりね」