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第五章 修学旅行

第五章

 クリスマスパーティーが終わると同時に、冬休みがスタートした。実家に戻る子や、友達と一泊二日の旅行に出かける子や、海外に行く子が居る中綾女だけは、寮に引きこもり後の三人は、実家に帰った。冬休みが終わると、テストやら卒業やらで慌ただしくなったが、無事三年生の卒業式が終わった。

「綾女君、文化祭の時はありがとう」

「いえいえ。ところで、彼氏さんとはアレからどうなりましたか」

「うん。バッチリ」

 満面な笑顔でピースをした菫は、他愛の無い話しを綾女としていた時、愁夜が見えた瞬間、綾女に別れを告げて終夜に駆け寄った。そんな状況を眺めていると、百合が声を掛けて来た。

「ちょっと、良い」

「あっ、はい。何ですか」

「菫先輩、見なかった」

「それなら……」

 目線を、菫と愁夜が楽しそうに話している方に向けると、百合もその方向に向き、状況を察知した。

「あっ、そう……ありがとう。えっと……」

 困惑している百合を、微笑むようにして自己紹介をし始めた。

「天月 綾女です。体育祭では、ありがとうございました」

「そう……天月、って言うんだ……」

「あの、どうかしましたか。また、顔色が良くないですよ」

 体育祭よりももっと顔色が悪くなりつつある百合の顔を、心配そうに見つめていた綾女に聞こえるか聞こえないかぐらいの声で聞いた。

「もしかして、あの……」

「えっ」

「いや、何でも無い。ありがとう、天月」

 その場を素早く離れた百合は、生徒会室の扉を乱暴に開け、ソファーに座った。だがしかし、落ち着かなく貧乏揺すりをし始めた。

「嘘だ嘘だ嘘だ」

 何かに取り付かれたかのように、繰り返し言っていたその時、またもや生徒会室の扉が乱暴に開いた。そっちに視線をやると、ソコには凄い形相で睨んでくる夕の姿があった。

「ゆ……う」

「どう言う事だよぉぉ」

 早歩きで百合の前まで来ると、百合の胸倉を掴んだ。

「……」

「どう言う事だ、って聞いてんだよぉぉ」

「……」

「渚先輩が言ってたこと。アレ、ってお前の所為なんだろ」

「……」

「黙ってねぇで、何とか言ったらどうなんだよぉぉ」

 怒鳴り声を出している夕は、胸倉を掴んでいる手の力を強くした。それでも、何も言わない百合にムカついた。

「よくもまぁ、平然とした顔でココに来れたなぁ。お前はずっと俺や、菫先輩や、渚先輩を騙――」

「五月蝿い。僕だって、こんなことになると思ってなかったんだよ」

 自分の胸倉を掴んでいる手を叩き落とすと、次々と言葉が出ていった。

「渚が言ってた、天月……アー君が吸血鬼、ってことは半信半疑だった。しかも、名前が昔と変わってたから違う、って思ってた。僕は、皆を騙してた訳じゃない」

「それでも、アイツを吸血鬼にしたのはお前。それは、変わらない事実だ。今日ソレが分かる、ってことは、どうしてもっと早く調べなかった」

「五月蝿い五月蝿い五月蝿い」

 両耳を塞ぎ、ソファーに座りながら縮こまった。そんな百合たいして夕は、もっと罵声を吐いた。

「お前はいつもそう、嫌なことがあったらすぐ逃げる。昔も今も、何も変わっちゃ居ない。最低で愚図な吸血鬼のままだ」

「……」

「ほらみろ、自分の立場が悪くなったらすぐ黙り込む。そう言う所が、大嫌いなんだよ」

 軽蔑な目を百合に向けると、生徒会室から出ようと、取っ手を掴むと何かを思い出したように、また百合の方を向いた。

「後、次の生徒会メンバーで、アイツが選ばれるかもしれない。まぁ、蓮華が言ってたことだから本当かどうかは知らないがな」

 それだけ言うと、生徒会室から出て行った。残された百合は、さっき言っていた夕の言葉で頭が一杯だった。

「駄目。それだけは、絶対に阻止してやる」

 立ち上がり、生徒会長用のパソコンを起動させ、何かをし始めた。そして、春休みが終わると、入学式が行われた。その時、生徒会メンバーの紹介の時に綾女の名前は呼ばれなかった。百合の提案により、生徒会メンバーは変わらずにその代わりに、百合が副会長と書記を掛け持ちすることになった。

「百合、やっぱり無茶だよ。学園長に頼んで、もう一人メンバーに加えよう」

「もう決まったこと、後から愚痴愚痴言うな。渚だって、賛成したことだろ」

「まぁ、そうだけど……」

 苦笑いをしている渚をほっといて、新しいクラスに向う百合の前に、夕が壁に凭れ掛かっていた。

「……」

 無言でその場を立ち去ろうとしていた百合に、夕が話しかけた。

「よくもまぁ、あの短時間でアレだけの成果を出すなんて、一体何をしたのか聞かせて貰いたいね」

 嫌味っぽく言う夕に、冷たい視線を向けた百合。

「アンタには、関係の無い話だ」

 それだけ言うと、また足を進めた。その行動に、夕が舌打ちしたのは言うまでも無い。今年のクラスは、綾女、椿、水仙、秋羅の四人が同じ二年一組で、夕が二年三組。百合と渚は、今年は同じクラスで、三年五組。朝のホームルームが始まる鐘が鳴った。

「去年一緒だった奴もいると思うが、改めて自己紹介をする。青井 弓花だ。今年一年よろしくな」

 青井先生が担任のクラス、二年一組。またもや、騒がしくなる予感。

「あぁ、後。今日転入生を紹介する。入って来い」

 教室のドアが開くと、入って来た生徒は女子で、クラスの男子の殆どが騒ぎ出した。

「自己紹介するから、静かにしろよ」

 さっきまで騒がしかったクラスは、しーん、と静まり返った。

「それじゃ、自己紹介宜しく」

「我の名は、杉野夜 雛菊だ。お前らみたいな、下劣な奴らとは仲良くする気は無いので、気軽に声を掛けるなよ」

「……」

 教室中、別の意味で静まり返り、流石の青井先生も話すタイミングを逃した。

「ところで、青井先生とやら。我の席は何処かな」

「……えっ、あぁ。窓側の一番最後の列だ」

「そうか、では」

 自分の席に座りつくと、青井先生は気を取り直して授業を始めた。そのお陰で、教室中はまた騒がしくなったが、雛菊が当たった時だけ静まり返った。雛菊の自分勝手の行動は、この後も続き、体育祭の日には全校生徒の忘れられない体育祭となった。その訳とは――

「なぁ、秋羅。普通、大玉転がしは、皆で一致団結してやるもんだよな」

「あぁ」

「一人で良くのなら、まだしも分かる。他のみんなが遅かった、と言う言い訳も出来る。でもさ、一人で蹴ってボールだけゴール、ってどんな競技だよ」

「だよなぁ。てか、普通は一回蹴っただけでゴールまで行かないと思うけどな」

 他にも数々なデンジャラスナ事が起こった。例えば、パンくい競争では一個だけパンを銜えて走るというルールなのに、一個だけではなく全部のパンを銜えて走ってしまった。二人三脚のリレーでは、人ではなくダックスフンドを連れて走ったり、綱引きでは皆が綱を引いてる時に、真ん中を鋸で切ろうとしていたりしていた。まだ色々とした所為で、雛菊は、転校して六ヶ月で問題児と言うレッテルを貼られた。体育祭が終わると、二年生だけのメインイベント。修学旅行が始まる。班は、五人班で綾女、椿、水仙、秋羅そして、雛菊と言う、濃いメンバーになった。

「まぁ、まず。どこか行きたい所を各自で言って、どこに行くか決めるか」

「そうですね、まず――」

「もう一編言ってみろ、このゴミ虫野郎」

 行き成り椅子から立ち上がると、秋羅の胸倉を掴んだ。

「はぁ……またか」

「またですね」

「いい加減、飽きればいいのに。喧嘩するほど何とやらだな」

「言ってやろうじゃねぇか、暴力女」

 負けじと秋羅も、雛菊の胸倉を掴んだ。このクラスでは、コレは日常茶飯事になっていた。なので、誰も気に留めず修学旅行の場所決めを続けていた。雨高では、修学旅行の場所は、各自で決められるようになっていた。期限は、二日から一週間だ。

「アノ二人は、放置の方向で進める」

「そうですね。まず、綾女君はどこに行きたいですか」

「……滋賀かな」

「俺は、京都」

「それでは、滋賀と京都と大阪で決定でいいですね」

 修学旅行でいける場所は、国内なら何処でも良し。ただし、三つルールがある。一つ目は、三つの県に行くこと。二つ目は、帰ったらレポートを書いて提出すること。三つ目は、中間テストがなくなる代わりに、期末テストの範囲が多い。その期末テストで、二年生全員追試者ゼロ、と言うのが絶対条件である。もし、一人でも追試者が出たら、来年から修学旅行は無くなる。二年生のテストで一番プレッシャーが掛かっている。

「それでは、アーちゃん先生に出してきますね」

「あぁ」

「よろしく」

 修学旅行で行く場所が書かれてあるプリントを持って、青井先生に向っている水仙からまだ喧嘩している二人の方に、目を向けた。二人が喧嘩している理由は、修学旅行で行く場所決めの件だった。秋羅は、沖縄に行きたくてでも、雛菊は北海道に行きたいと言う。そこで、相手の行きたい県の悪口が始まり、喧嘩が始まった。

「沖縄には、守り神のシーサーが居るんだよ」

「ソレがどうした、北海道には由緒正しいお祭りがあるんだよ」

「何時になったら、アノ喧嘩は終わるんだ」

「アーちゃん先生が止めに入る時」

 興味が無くなった椿は、読みかけの本を取り出し読書をし始めた。こんなグダグダな班で集団行動も無いだろう、と思った綾女だった。


「あぁ、やっぱりこうなったか。でもまぁ……綾女が何とかしてくれるだろう」

 その時、ノックの音が部屋中に響いた。

「どうぞ」

 双眼鏡で、綾女のクラスを除いたまま返事をした。

「学園長」

「ん。あぁ、お前か。入学おめでとう。どうだ、新しいクラスは」

 双眼鏡から目を離し、入って来た生徒と目を合わせた。

「はい。一応、仲良くしています」

「そうか、ソレはよかった。ところで、何しに来たんだ」

「いえ、ちょっと学園長と話してみたくて」

「ふーん」

 意味ありげな顔をで、コーヒーを入れ始めた。

「お前もいるか」

「いえ、会長と話したかっただけなので、ボクはコレで」

 学園長室から出て行く生徒の後姿に、釘を刺すように言った。

「お前はまだ動く時じゃない、じっとしてろ。じっとしてなかったら、そのときはどうなるか――」

「分かってますよ、よくね」

 不敵な笑みを浮かべながら、学園長室を出たことは見なかったことにしようかな、とのんきなことを思っていると、またもやノックの音が聞こえた。

「……」

 めんどくさくなったので、居留守をしよう、と思いさっき入れたばかりのコーヒーを学園長専用の椅子の上で飲んでいたら、勢いよく扉が開いた。

「居留守使ってんなよ」

「扉が壊れたら、弁償しろよ夕」

「ところで、何でアイツの言うことを聞いたんだよ」

 づかづかと歩いて来た夕は、蓮華の目の前で立ち止まったが、声のトーンはまた下がった。

「主語が無い、アイツ、って誰だよ」

 めんどくさそうに答えたが、余計に夕を怒らす羽目になった。

「アイツだよ、百合」

「あぁ、なるほど。大体状況は掴めたけど、夕に言ってもあたしにはメリットが無いから言わない」

「おちょくってんのか」

「少し」

 その時、机の上に置いていたコーヒーが入ったコップが、床に落ち粉々に割れコーヒーのシミが出来た。

「物に当たるのは、今も昔も変わってない。てか、今も昔も変わってないのは、夕も一緒。何偉そうな口叩いてんの」

 鋭い目付きで睨んでくるが、この目は幼い頃から見ているため、怖くは無い。

「人のこと言うより、自分のことだろ」

「……」

「まぁ、いずれか分かるよ。夕が知りたいことは、いずれか分かる。ソレまでの辛抱、修学旅行楽しんできなよ」

 それだけ言うと、学園長室から出て行った蓮華。置き去りにされた夕は、目に付いたものを扉に向って投げた。そんなこんなで、修学旅行当日。綾女達は、一日目滋賀県に行く予定であった。ちなみに、夕の班は北海道である。

「着いたぁ、長かった、マジで長っ――」

「うるせぇ」

 言葉を遮り、秋羅の頭を叩いた雛菊に対して、秋羅も負けじと叩き返す。そこから、また喧嘩が始まった。

「またですか。まぁ、新幹線の中で喧嘩しないだけよかったのですけど……」

 蓮華が、ため息を吐いたことを二人は知らずに、言い争いが始まっていた。だが、その瞬間――

「いい加減にしろやぁぁ」

「……」

「……」

 乗り物酔いをしている椿は、二人に向かって怒鳴り散らした。二人も、その勢いで黙った。

「次喧嘩したら、帰りは歩いて帰れ」

「……」

「……」

 重たい空気が、椿の周辺に纏わり付いていた。沈黙が数分続くと、水仙が気を取り直して、皆に話しかける。

「それじゃ、長旅で疲れていると思いますので、観光は明日にして今日はホテルで休みませんか」

「そうだな、俺はソレでいいと思うぞ」

「とにかく、休ませろ」

「椿君……目が、目が怖いですよ」

「秋羅達は、別に良いのか」

 先ほどから何も話していない二人に、尋ねたが答えは返ってこなかった。

「ちょっと、良いですか椿君」

「……何だよ」

 分かりやすいくらいに、嫌な顔をしている椿を無理矢理に、秋羅と雛菊の二人から結構距離を置いた。

「んだよ、行く場所決まったんだろ。なら――」

「アホですか」

「何だと」

 機嫌がまたもや下がってしまったが、水仙はそんなことを気にせずに、椿との距離を縮めた。

「椿君が、あんなに怒るから、あの二人が何も話さなくなってしまいました」

「別に俺は、話すな、とは言ってねぇよ」

 本日二回目のため息を吐いた水仙は、自分の頭を指した。

「もうちょっと、ココ使ってください。勉強は出来るのに、こう言う人間関係に関しては素人ですね」

「その言い方、ムカつくんだけど。てか、水仙が言いたいことが分かんないんだけど」

「あの二人は、口を開けば何をしていましたか」

「……あぁ、なるほど」

 やっと、水仙が言いたいことが理解できた椿。

「そうです、喧嘩ばかりしていましたから、口を開かなくなったんです。喧嘩しないことは良いことですが、こう言う時では話してもらわなければ困ります」

「それで」

「だから、あの二人がいつも通りに話ができるような、雰囲気で居てください」

「出来ているじゃっ――」

 流石の水仙も、椿を殴らずには居られなかった。

「何処がですか、乗り物酔いしている自覚があるんですよね」

「あぁ、まぁ」

「眉間にしわがよっていますし、声がいつもより一オクターブ低いです」

「治せって」

「はい」

 即答した水仙を置いて、元来た道を戻ろうと荒田を向きなおした瞬間、水仙に手首を掴まれた。

「離せよ」

「さっきの話しの答えを聞いていません」

「答えはノー」

「何で、ですか」

「乗り物酔いを甘く見るな」

 そう言うと、水仙の手を払いのけ、待っている綾女達の所に行った。水仙も呆然と立っていたが、その時間が勿体無い、と思い綾女達が待っている所に向かい、予約してあるホテルに向った。ホテルに向う途中も、秋羅と雛菊は一言も喋らず、空気が重く感じたのであった。ホテルに着くと、男女で別れて部屋の中に入った。一日目は、そんな感じで終わった。


 一方、蓮華は夜の見回りをしていた。夜の校舎内の見回りは普通、警備員の仕事だが雨高は学園長がするのであった。

「何処も異常無し……と思っていたけど、違ったみたいだな」

 三年生の校舎に、明かりが付いていた。それも、教室全てに。三年一組に付くと、ドアを開けようとしたが、鍵が掛かっている様で開かなかった。だけど、学園長は雨高の鍵全てを持っているので、慌てる必要は毛頭無い。

「誰か居るのか」

 勢いよくドアを開けたが、ソコには誰も居なかった。

「……」

 少し考えた様子の蓮華は、三年一組の電気を消し、鍵を掛け次のクラスに向った。アレから三十分経ち、電気が付いてあるクラス全部見て回ったが、人影は愚か放課後以外に人が入った痕跡は無い。その痕跡は、隠しカメラだ。校舎の中には、三十個以上の隠しカメラと五十個以上の盗聴器がある。それら全部つけたのは、他でもない蓮華だ。

「おかしい……」

 学園長室に戻り、ソファーに座って考え込むこと一時間、謎が解けた。

「それじゃ……」

 謎が解けた瞬間、ソファーから立ち上がり学園長室を出てきた。

「やっぱり、ココに居た」

「あぁ、見つかっちゃた」

「三年生全クラスの電気を付けたのは、君だよね。渚君」

「まぁ、そうだね。ところで、何でココだって分かったの」

 今、蓮華が居る場所は、今は使われていない第三美術室。

「その答えは、また今度教えてあげる。けど、教育者としては見逃せない光景だね」

 先ほどまでは、余裕そうに見せたが、一瞬動揺したのを蓮華は見逃さずに、一歩ずつ渚に近づいた。

「見逃してよ、学園長。この行為は、仕方の無いことだって分かってるでしょ」

「……仕方ないねぇ」

 月のお陰で渚の顔が見える位置までくると、渚の膝の部分を見た。そこには、首に噛まれた痕を残して、横たわっている女子生徒が居た。首に付いてあるモノは、どこからどう見ても吸血鬼の噛み跡だった。

「この女子生徒の記憶は消したの」

「あれ、学園長は僕の能力知らない。僕に血をくれた子は皆、その時の記憶が消える」

「知ってる、あたしを誰だと思ってるの。君達、吸血鬼の生まれ変わりは、一人一人別々の能力がある」

 肩を竦め、渚と見つめ合いの中痺れを切らした渚は、目を逸らし、窓から月眺めながら話し出した。

「今頃、綾女君達は、寝てるのかな」

「さぁ、小学校や中学校の時みたいに、消灯の時間は無いから。でも、今でも起きてると明日が大変だよ」

「あれ、もう帰るの」

 第三美術室のドアを開け、首だけ渚の方に向け意味深い笑みを向けた。

「今日は見逃してあげるけど、今度見つけたら停学だよ」

「そう。ところで、学園長の名前何て言うの」

「ソレは、願いに入るの。入るのなら答えよう。でも、そうじゃないのなら、ノーコメントでお願いしたいね」

「残念ながら学園長が言う、願いではないよ」

「そう。それじゃ、その女子生徒とは任せたよ。お休み」

 第三美術室から出て、学園町室に戻った蓮華は、生徒会メンバー全員の個人情報が載ってある名簿を取り出し、ソファーに座りながら見た。

「二年三組 藤堂 夕。家族は、父、母、姉で、先祖が吸血鬼。血を飲まれた人全員自分の虜にする、と言う能力」

 夕の名簿を机の上に置き、次の名簿を手に取った・

「三年五組 清水 渚。家族は、父、母、兄、妹。父が元吸血鬼。血を飲まれた人全員の記憶を無くすことが出来る、と言う能力。次は、藤堂 百合。家族は、父、母、弟で、先祖が吸血鬼。血を飲まれた人全員の過去を見る、と言う能力……違う」

 百合の名簿を夕の名簿の上に置き、何かを書き始めた。

「見るではなく、見えた能力だよ」

 ソファーから立ち上がり、窓から月を見上げた。

「クリスマスパーティーまで、後三ヶ月ちょっと。ソレまでの準備が、一週間。早いね、時間が経つのは」


「なぁ、何で俺様達は、トランプ何かしてンだ」

 修学旅行二日目の朝。男子部屋では、綾女と秋羅が、女子の着替え待ちの所為で、トランプをする羽目になった。ちなみに、今はピラミッドを作っている。

「ちょっと、綾女と馬鹿は居るか」

 行き成り部屋に入ってくるなり、大きな声で反応した二人は、三時間かけて作ったピラミッドが三段目まで出来ていたものが、一気に崩れ落ちた。

「……」

「俺様達の三時間が、水の泡に……」

「正確に言うと、三時間二十八分だろ」

 的確な突っ込み入れた雛菊は、その後も悪びれる様子も無く部屋を出て行った。部屋に残された二人は、トランプを片付けながら秋羅の愚痴を聞いていた。トランプを片付け終えると、二人は部屋を出て行った。

「……何とも言えない天気だな」

「そうだな、ところでアホはどこ行った」

 さっきの馬鹿、と言われたことをまだ根に持っている秋羅を、呆れながら見ていると雛菊が小走りでやって来た。

「ゴメン、待ったか」

「待った、待ちまくり」

「そこは、嘘でも待ってない、って言うじゃよ。これだけら、オメェーはモテねぇんだよ」

 また、秋羅と雛菊が喧嘩し始めたのは、言うまでも無く昨日あれから、一日喧嘩は三回目でなら許す、と言われいつも通りの二人に戻った。

「ところで、椿と水仙は」

「え、あぁ、もうすぐ来るんじゃがな……あ、ほら来おった。こっちじゃよ」

 手招きをしている方を見てみると、水仙と誰かが小走りでやって来た。

「ごめんなさい、準備に戸惑ってしまって」

「大丈夫じゃよ。男共は待つのが仕事の何じゃからな」

「てか、コイツ誰。椿はどうしたんだよ、阿保」

 今まで水仙の後ろで待機していた人を指差しながら、雛菊に聞いた時秋羅の鳩尾に雛菊の拳が入った。そして、数歩後に下がりむせ返った。

「この大馬鹿野朗。見てわかんじゃろうが」

 水仙の後ろから引き剥がし、自分の鳩尾を押さえている秋羅の前に現した。

「……」

「……」

 二人の間に何とも言えない空気が漂い始めた頃、その空気を断ち切るように綾女が入って来た。

「もしかして……椿」

「……」

 顔が一気に真っ赤になったので、図星なんだと悟った。秋羅は、嘗め回すようにして椿を見た。

「それにしても、ココまで変わるもんか」

「変わったんじゃなくて、この姿が元の姿なんだろう」

「そ、そんなに見るな」

 今の椿の格好は、今までの服装と正反対の女の子らしい服装である。黒がメインであるが、誰が見ても女の子に見える。それに、服装だけではなく、髪型も違う。今までは、男子のように短かった髪の毛が、今では腰までの長さである。

「椿、この髪地毛か」

「そ、そうだけど」

「そんなの嘘だろ、こんなに長い訳ねぇ――」

「今までの髪型は、ズラ何だよ」

 最後まで言い終わらないうちに、割り込んで来た雛菊に怒りの視線を投げ付けた秋羅をほっといて、椿の手を掴むと歩き出した。

「理由、聞いて良い」

「良いですよ。綾女君は意外に冷静ですね。幼馴染の秋羅君でも……」

 目線を向けた先には、未だに納得できていない秋羅がいた。

「まぁ、待っている間に椿が居ない時点でおかしい、と思っていたから」

「そうですか、それでは何で椿君があんな格好をしているかといいますと。昨晩うちと雛菊さんと椿君とで、賭け勝負をしていました。その賭けの内容は、トランプで最下位の人は、今の真逆の格好、性格になる、と言うことです」

「と、言うと」

「お察しの通り、うちは男の子の格好をして男の子の口調で今日一日過ごす、ってことです」

「それで、最下位は椿で女子の格好をさせて、女子の口調今日一日過ごす、ってこと」

「はい」

 満面な笑みで言っているが、椿にとっては今日一日地獄のように感じているのであった。

「それに、もうひとつ理由があります。それは、自分で考えてください」

 それだけ言うと、椿と雛菊と一緒に歩き出した。綾女も秋羅を引っ張りながらその後ろを歩いた。それから、五時間経過した。

「滋賀、ってすごいな。何か、チョー楽しかった」

「てか、今ココ何処じゃ」

「長浜、って言うらしいですよ」

「長浜は、何が有名なんだ……なの」

 今日一日、椿は口調を変えなくてはいけないから、言い直すことが多い。その光景を、温かく見守っている人も居れば、笑いを堪えているも居た。

「駄目だ。マジおかしい」

「秋羅、笑いすぎ」

「いつか、埋める」

 そんな物騒なことを言っている椿の隣で、水仙と雛菊でどこに行くか決めていた。綾女はと言うと、その光景を後ろから見守っていた。

「やっぱり、曳山は見たいですね」

「でも、もう遣ってないじゃろう」

「うーん……あ、でも蔵は見れるそうですよ」

「それじゃ、蔵巡りをしてから土産を買うかの」

「はい」

 行く場所が決まったら、さっそく曳山が入っている蔵に向った。

「蔵は全部で、十二基あるらしいですね」

「何処から回るんだ」

「おい、馬鹿。何やる気のない声を出してるんじゃ。もっと、シャキッとしろ」

 前を歩いている三人を眺めている綾女と椿は、無言のままその後ろを歩いていた。

「おい、大丈夫か椿。顔色悪いぞ」

「……大丈夫」

 どこから同見ても、大丈夫に見えないくらい顔が歪んでいた。足の速さも五時間前とは違い、覚束無い歩き方だ。

「もしかして、足……」

「……」

 前の三人と徐々に距離が開き始めた。

「なぁ、皆」

 足を止め、椿の手を握りながら前の三人にも聞こえるように話し出した。

「悪いけど、トイレ行って来るは」

「それなら、うち達も一緒に――」

「嫌、いいよ」

 三人がこっちに来ないように軽く手を挙げ、待ち合わせ場所を決めて別れた。綾女は、椿の手を握ったまま近くの公園に入り、ベンチに座らせ履いていたヒールのサンダルを脱がせた。

「あーあ。やっぱり、靴擦れだな」

「……」

「それも、結構酷いな」

 靴擦れしている部分を見る限り、歩くのも困難な状態。

「うーん……どうするかな」

「絆創膏持ってないよな……よね」

「無いな。しかも、薬局は遠いしなぁ……てか、今ココに居るのは俺だけだから、普通に話してくれても良いんだけど」

 靴擦れしている足をゆっくり下ろすと、立ち上がり辺りを見回した。

「俺が買ってくるとして、この場所に椿一人を置いていくのはなぁ……」

「し、失礼な。俺はどこにも行かない」

「そうじゃなくてな……」

 自然に溜め息がこぼれた綾女に、椿は愚痴を言っているがその話は、綾女の耳を通り過ぎていった。綾女の心配は、今までの椿は男から声を掛けられる心配は無かったが今は違う。この公園まで来た時も、チラチラと男共が椿を見ていた。それに気が付いていない椿を一人でこの場所に置いておくのは駄目だ、と思っている綾女の気持ちをコレポッチも分かっていない椿に、またもや溜め息が出た。

「もういい。綾女が行かないのなら俺が行く」

 ヒールの有るサンダルに足を滑り込ませ、一瞬顔が歪んだが気にせずに歩き出した。そんな椿を無理矢理同じ場所に座らせた。

「馬鹿かお前は、そんな足で歩くな」

「でも、早く行かないと水仙達に怪しまれる」

 決して逸らそうとせずに、綾女の目を見た。

「……」

「……」

 数分睨み合いが続いたが、結局先に折れたのは綾女だった。

「分かった。その代わり、少し待ってろ」

 そう言うと、綾女は公園から出て行った。数分後、戻ってきた綾女の手には、先ほど買って来た健康スリッパを椿の足に履かせた。

「ほら、そのサンダルよりはマシに成っただろ」

「う、うん……」

 予想外なことが起こったけれど、ヒールの有るサンダルを持とうと腕を伸ばすと、ヒールの有るサンダルは綾女に奪われた。

「ほら、行くぞ」

 ヒールの有るサンダルを片手で持ち、薬局が有る方に向った。

「ちょ、ま、速い」

「あぁ、ごめん。よかったら、手でも繋ぐか」

「い、いい」

「そうかい」

 さっきよりもペースを遅くし、椿の前を歩き椿のペースに合わせた。椿は、目の前に居る綾女の服を遠慮がちに握った。

「に、にやけんなよ」

「にやけてないよ」

 真っ赤な顔をしている椿に掴まれてご機嫌な綾女は、薬局に着くと絆創膏と消毒液とガーゼを買い、強制的に泊まっているホテルに帰った。水仙達には、電話で事情を説明するとお土産を買って来て貰える様になった。綾女がホテルで椿の愚痴を聞いている間、水仙達は蔵巡りをしていた。こうして、二日目も終わり、朝の八時頃に京都行きの電車に乗った。


「蓮華、蓮華開けろ」

 学園長室のドアを叩く音で、起き上がった蓮華は今まで寝ていたことに気がついた。

「今開ける」

 いつ鍵を閉めたのか覚えていないが、イヤホンを取ってドアの前に立ち鍵を開けた。

「もしかして、寝てたのか」

「まぁな。てか、帰って来るのが早い。修学旅行三日目だろ」

 窓の外は、朝から天気が良く快晴だ。

「別に良いだろ」

 図々しく部屋の中に入ってくるなり、さっき取ったイヤホンに目を向けた夕は、そのイヤホンを地面に叩きつけ、踏み付けてイヤホンを粉々にした。

「器物破損だ。夕」

「その前に、天月 綾女を盗聴するな」

 地面に粉々になっている元イヤホンからは、綾女の声がリアルタイムで聞こえていた。その理由は、修学旅行で泊まる所は学園長が全部決まるので、予め盗聴器を仕掛けたりしていたのだった。

「それより、何しに来た。帰ったらまずレポートだろ」

「出来たから、ここに来てんだろ」

「……来なくて良いものを」

 修学旅行中、雨高に帰ってくる日にちはそれぞれ班で決める。早く帰ればその分レポートを書く時間が延び、休日も増える。その部分も踏まえて、どの班も変える順序を組んでいる。因みに、綾女達は四泊五日だ。

「そう言えば、一昨日渚先輩のアレ、見たらしいな」

「だから」

「血、吸われたか」

 壁に蓮華を押し付け、その横に両手を付き逃げ道を塞いだ。

「吸われてない。ホラ」

 首元を大きく開いて、渚に吸われていないことを証明した。

「絶対、誰にも吸わせない。蓮華の初めての血は、オレのモノだから」

 首元を大きく開いてるのを良いことに、首元に顔を埋め血を飲もうとした瞬間、夕の鳩尾に蹴りが入った。

「誰も、あげる何て言ってない」

 鳩尾を押さえながら、意味ありげな笑みを向けながら学園長室を出て行った。


「おぉ、舞子さんが沢山居るぞ」

「別嬪じゃのう」

「二人とも、騒がないで下さい。周りの人の迷惑ですよ」

 修学旅行三日目、今居る場所は京都。人生初の舞子さんを見てテンションが上がっている二人。

「大丈夫か椿。足、あんまり痛かったらすぐ言えよ」

「……わかった」

 今日も、賭けに負けた椿の格好と口調は女子。でも今度はヒールの有るサンダルではなく、ロングブーツである。

「見てください。あのお店、舞子さんの格好をして写真が取れるそうですよ」

「マジ」

「何か貼っておるのぉ」

 店の前まで行き、チラシを読み始めた。

「えっと……恋人割引可能」

「それでは、どうしましょうか」

 この班の割合は、今男子二人で女子三人である。だから、女子が一人余ってしまう。

「それじゃ、俺……私が待ってるよ」

「……」

 横目で椿を見た綾女は、椿の手を掴むと無理矢理店の中に入って行った。その光景を唖然と見ていた秋羅と雛菊の横で、満足そうな顔をしていた水仙が居た。

「それでは、うちが残りますので二人で取って来て下さい」

「やじゃ、我はこんな男と写真なんぞ撮らん」

「それは、こっちの台詞だ。どうせ撮るんなら、水仙が良い」

「何じゃと」

「何だよ」

 また喧嘩を始めた二人に、男の声のように低い声で命令した水仙に、従わずには居られなくなった二人は、渋々店の中に入った。その後姿を見届けた水仙は、何か食べたくなったので和菓子を食べられる所に行った。それから、三十分後舞子さんの格好が出来る店の前で合流し、水仙に撮った写真を見せた。

「へぇ、椿君と雛菊さんが舞子さんで、綾女君と秋羅君は、お侍さんの格好をしたんですね。でも……」

 写真を撮った格好は、舞子さんは本格的で鬘まで被って化粧をしているが、侍の格好は、服と刀だけで髷は身につけていなかった。

「まぁ、それはそれで良い思い出になったからいいよ」

「!」

「珍しいの。椿がそのようなことを言うのは、そんなに舞子の衣装が気に入ったのか」

「ち、違う」

 じゃれ合っている二人の間に、信じられない様なものを見たような目をしている水仙に気づく者は居なかった。そんなこんなで、三日目が過ぎ大阪に行き五日目の七時頃に雨高の量に付いた。


「あぁ、とうとう修学旅行も終わってしまった」

 深い溜め息をつくと、ソファーから立ち上がり、ファイルを手に取った。

「さて、準備に取り掛かろうかな」

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